海の向こうの競馬、そしてホースマン

最終回
ビジネス哲学は"出る杭は根こそぎ抜き取れ"(?)
 

海外のセリ市に、
約20年に渡って携っている合田さん。
日本人バイヤーの好みも、
時代によって大きく移り変わっているようです。

「やはり1990年代の前半から中盤というのが、
 “日本競馬のバブル時代”だったのでしょう。
 実際、この時代、
 アメリカで行われるバレッツセールでは、
 総売り上げの半分以上が日本円で
 取り引きされていましたからね」



「現在は、マル外馬そのものの低迷からも分かるように、
 1、2歳馬を扱う海外セールにおける
 日本人バイヤーの動きは、
 全体的にはちょっと鈍いものになっています。
 その分、サンデーサイレンス以降、
 日本にいる種牡馬が
 とても充実してきている影響もあって、
 海外の繁殖牝馬セールは、
 なかなかの盛況ですよね。
 母がタタソールの繁殖牝馬セールで取り引きされた、
 ディープスカイのような大物が登場してきたことで、
 この傾向は、さらに強くなるかもしれません」

まさしく、
日本競馬界では“ワンアンドオンリー”な存在感を
持っている合田さんですが、
たとえば、
若い競馬ファンからの“弟子入り志願”とかは
ないのでしょうか。

「まあ、ウチの会社に就職したい、
 アルバイトをしたいという問い合わせは、
 ごくたまにあるのですが、
 個人的に“弟子にしてください”みたいなことは、
 さすがにないですね(笑)。
 たしかに雑誌などで海外競馬の評論を
 なさっている方は多いですが、
 テレビに出て海外競馬のことをしゃべり、
 他方で海外の競馬にまつわる様々な
 裏方的な仕事もしているというのは、
 ぼくぐらいかもしれません。
 まあ、基本的には地味な仕事ですから、
 憧れを抱く方は、
 あまりいらっしゃらないでしょう(笑)」

“ということは、合田さんの仕事上のライバルも、
 当分は出現しないということですね?”
と、ちょっと意地悪な質問をぶつけてみたのですが、
合田さんはニコリと微笑んで、
こう切り替えしてきました。

「実は、自分の仕事を脅かしそうな存在を見つけると、
 素早くその芽を摘み取ってきたんです。
 “出る杭は根こそぎ抜き取ってしまえ”
 というのが、ビジネスにおける、
 ぼくの基本方針ですから…、
 というのは、冗談です(笑)」

「正直なところを言えば、
 自分がいまのペースで仕事をできるのも、
 あと15年くらいでしょうから、
 それまでは、競合する相手が
 出てきて欲しくはないですね(笑)」

さて、今回の合田さんへのインタビューは、
これにて完結ですが、
明日から、『海の向こうの競馬、そしてホースマン2』と題し、
新たなシリーズが始まります。
テーマは2009年欧米クラシック戦線の見所や注目馬、
そして思いでの名勝負や
クラシックレースにまつわる心暖まる話などなど…。

海外競馬の第一人者、合田直弘さんの
味わい深いトークを引き続きお楽しみください!

(第1部 完)

構成・文/関口隆哉

 

合田直弘氏 プロフィール

1959年東京生まれ。慶応普通部(中学)時代から馬術部に所属するかたわら、千葉新田牧場で「乗り役」としてのアルバイトをこなす。慶応大学経済学部卒業後、1982年テレビ東京に入社。『土曜競馬中継』の制作に携る。1988年テレビ東京を退職し、内外の競馬に関する数多くの業務をこなす(有)リージェントの設立に参加。
現在は、『世界の競馬』(NHK-BS)、『鈴木淑子のレーシングワールド』(グリーンチャンネル)などのキャスターも務めている。