海の向こうの競馬、そしてホースマン

第26回
馬の意志を大切にする欧州のホースマン
 

昨日も書きましたが、
日本では、われわれ取材陣が、
馬の背後に立つことはタブーとされています。
しかし、合田さんは、
この現象を、笑い飛ばしてくれました。

「まず、
 “馬が後ろ脚で人間を蹴飛ばす”という概念自体が、
 ヨーロッパの競馬関係者には希薄だと思います」

「もちろん、育成、調教の技術の違い
 ということもあるのでしょうが、
 向こうの環境のなかにいると、
 馬が人間に危害を加えるというケースは、
 とても起こり得そうもない。
 だから、人が馬の背後に立っても、
 全然、大丈夫なのですね(笑)」

だからと言って、欧州の競馬関係者が、
日本の関係者たちに比べ、
特別念入りに馬に対して
手をかけているわけでもないそうです。

「馬術の世界でも、同じことが言えるのですが、
 あるいは日本人は無駄なことで、
 馬に手をかけ過ぎているのかもしれません」

「ヨーロッパでは、
 ある程度ほったらかしにすることが、
 馬の意志を大切にすることに繋がる
 という考え方が根本にある気がしますね」

さらに合田さんは、
自らの体験談を語ってくれました。

「馬術部にいたとき、
 脚の繋(つなぎ)の裏側にある窪みが
 湿ったままだと馬が風邪を引くと教えられていて、
 馬を洗った後、
 必ずその箇所は時間をかけて完全に乾くまで
 タオルでこすっていたのですね」

「ところが、ヨーロッパの厩舎では、
 脚元にジャーっと水をかけて、
 後はそのまま。
 それを見ていて、
 “な~んだ、脚の裏側の窪みが濡れたままでも、
 馬は風邪を引かないんだ”
 って、初めて分かったわけです(笑)」

(第27回に続く)

構成・文/関口隆哉

 

合田直弘氏 プロフィール

1959年東京生まれ。慶応普通部(中学)時代から馬術部に所属するかたわら、千葉新田牧場で「乗り役」としてのアルバイトをこなす。慶応大学経済学部卒業後、1982年テレビ東京に入社。『土曜競馬中継』の制作に携る。1988年テレビ東京を退職し、内外の競馬に関する数多くの業務をこなす(有)リージェントの設立に参加。
現在は、『世界の競馬』(NHK-BS)、『鈴木淑子のレーシングワールド』(グリーンチャンネル)などのキャスターも務めている。

 

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