1998年の米3冠レースを引っ張ったのは、
リアルクワイエットとヴィクトリーギャロップの2頭でした。
緒戦のケンタッキーダービーでは、
3角から一気にまくって先頭に立ったリアルクワイエットが
直線で追い込んできたヴィクトリーギャロップを半馬身差抑え込んで勝利。
続く、プリークネスSでも、
スピードに勝るリアルクワイエットが
2着ヴィクトリーギャロップに2馬身4分の1差を付け、
米2冠を獲得します。
「20年振りの米3冠馬誕生に立ち会えるかもしれない。
そんなファンの熱い期待もあって、
1998年のベルモントSには、
8万人を超える史上2番目の大観衆が詰めかけていました」
「3角過ぎからまくっていく、
いつもの戦法をとったリアルクワイエットは、
直線に入って、ほぼ独走態勢を固めたようにも見えました。
ぼくを含め、おそらく、誰もが
“歴史的瞬間に立ち会える”と信じたはずです」
「ところが、ゴールを直前にして、
リアルクワイエットの脚色が突然怪しくなった。
“エッ、どうしたんだ、リアルクワイエットは!?”
と思ったときには、
もうヴィクトリーギャロップが直後に来ていました。
結局、最後の1完歩でヴィクトリーギャロップがハナ差だけ、
リアルクワイエットを逆転し、
20年振りの3冠馬誕生の夢は泡と消えてしまったわけです」
当時を振り返っていた合田さんは、
笑いながら、こう付け加えてくれました。
「ヴィクトリーギャロップに騎乗していたG・スティーヴンス騎手は、
前年、このベルモントSで2着に負けて、
シルバーチャームでの米3冠達成を逃していました。
彼にとっては、まさしくリベンジを果たしたことになったのですが、
“ハナ差で歴史的瞬間が見られないとは! スティーヴンスさんよ~、
もう少し空気読んでくれよ~”という雰囲気が、
この日のベルモントパーク競馬場には、色濃く漂っていましたね」
さて、明日は、米3冠達成を目前で逃した名馬の苦い敗戦をもうひとつ。
2004年のスマーティジョーンズの話を合田さんにしてもらいます。
(第13回に続く)
構成・文/関口隆哉
1959年東京生まれ。慶應中学時代から馬術部に所属するかたわら、千葉新田牧場で「乗り役」としてのアルバイトをこなす。慶應大学経済学部卒業後、1982年テレビ東京に入社。『土曜競馬中継』の制作に携る。1988年テレビ東京を退職し、内外の競馬に関する数多くの業務をこなす(有)リージェントの設立に参加。
現在は、『世界の競馬』(NHK-BS)、『鈴木淑子のレーシングワールド』(グリーンチャンネル)などのキャスターも務めている。