「広大なアメリカ合衆国には、それこそ大から小まで、
数多競馬場が存在しているわけですが、
それぞれの競馬場の“格”というのは、
かなりはっきりと決まっているんです」
こう切り出した合田さんが、さらに話を続けます。
「たとえば、カリフォルニア州なら、
サンタアニタパーク、ハリウッドパーク、デルマー
という3つの競馬場が、
もっとも格が高い競馬場ということになります」
上記の競馬場は日本競馬界とも関連が深く、
サンタアニタパーク競馬場は、
ハクチカラがワシントンバースデーHを制し、
日本馬による海外重賞初制覇を飾った、記念すべき場所。
皇帝シンボリルドルフがサンルイレイSで
無念の敗北を喫した競馬場でもあります。
また、ハリウッドパーク競馬場では、
2005年のG1アメリカンオークスで、
シーザリオが鮮やかな勝利を記録しました。
「同じカリフォルニア州に所在する競馬場でも、
北部にあるゴールデンゲート競馬場などは、
ちょっと格式が落ちるのですね。
さらに、カリフォルニア州の隣に位置する
アリゾナ州にある競馬場とかになると、
一気に大衆的なものになります」
「アリゾナでは、賞金が安いということもあって、
有力な大馬主、名調教師、超一流ジョッキーは存在していません。
肉屋の親父さんや八百屋の大将なんかでも、
十分にサラブレッドのオーナーになれる。
実際、ブタの顔が書いてある勝負服を着たジョッキーが
レースで走っていたりするんです(笑)。」
「調教師やジョッキーたちも、無名な人々がほとんど。
格式の低い競馬場で頑張って、認められて、
格式の高い競馬場に移っていくといのが、
彼らが抱いている目標であり、夢となっています」
合田さんにアメリカの競馬場の話を伺ってい
るうちに思い浮かんだのが、
ルーキーリーグ、ワンA、ツーA、スリーAという
段階別の下部チームを持つ
MBL(メジャーリーグベースボール)の組織構造です。
上へ這い上がっていくための厳しい生存競争が
レベルの高さを支えているのは、
競馬も野球も同じことなのかもしれません。
(第30回に続く)
構成・文/関口隆哉
1959年東京生まれ。慶應中学時代から馬術部に所属するかたわら、千葉新田牧場で「乗り役」としてのアルバイトをこなす。慶應大学経済学部卒業後、1982年テレビ東京に入社。『土曜競馬中継』の制作に携る。1988年テレビ東京を退職し、内外の競馬に関する数多くの業務をこなす(有)リージェントの設立に参加。
現在は、『世界の競馬』(NHK-BS)、『鈴木淑子のレーシングワールド』(グリーンチャンネル)などのキャスターも務めている。