「ローリーマイルコースもそうですが、
夏場に使用されるジュライコースは、
さらに観客に優しくないですからね」
どこか楽しげな表情を浮かべながら、
合田さんが続けます。
「なにせ距離の長いレースになると、
スタート地点はスタンドの裏ですから!
はなから観客に見せるつもりがないのかと思えるほど、
とんでもないコースレイアウトなんです」
「でも、こいういった不便さは、
ニューマーケット競馬場が
自然の地形を活かしたコースレイアウトを、
かたくなに守り続けている証拠でもあるわけです」
「ニューマーケット競馬場は、
人の都合を優先させてはいない。
立地条件的にも、ロンドン市街からの
交通の便が悪いところなのですけど、
周囲の自然環境に手を加えてまで、
交通手段を整えようとは考えない。
つまりは、馬に優しい環境をキープし続けている。
そのことが、この競馬場を、
競馬発祥の地イギリスのなかでも、
特別な存在としている理由なのです」
ここで、合田さんの事務所を訪れていた、
とある競馬関係者が、
こんな証言をしてくれました。
「タタソールのセリ市に参加するために、
初めてニューマーケットを訪れたとき、
同行していた調教師さんが、
“あそこが有名なニューマーケット競馬場だよ”
って教えてくれたんです。
“エっ、たんなる原っぱじゃん”
というのが、正直な感想でした」
それを聞いた合田さんが、こう応じました。
「日本やアメリカのような、
ファンの見やすさを優先させた、
人の手によって整備された競馬場も悪くないけど、
“競馬って、本来はこういうものなのだろうな”
ってシミジミと想わせてくれるワイルドさ、
自然との一体感こそが、
ニューマーケット競馬場最大の魅力なんですよね」
(第18回に続く)
構成・文/関口隆哉
1959年東京生まれ。慶應中学時代から馬術部に所属するかたわら、千葉新田牧場で「乗り役」としてのアルバイトをこなす。慶應大学経済学部卒業後、1982年テレビ東京に入社。『土曜競馬中継』の制作に携る。1988年テレビ東京を退職し、内外の競馬に関する数多くの業務をこなす(有)リージェントの設立に参加。
現在は、『世界の競馬』(NHK-BS)、『鈴木淑子のレーシングワールド』(グリーンチャンネル)などのキャスターも務めている。