1980年代後半から1990年代序盤にかけての “競馬ブーム” の最中、
牡馬の一線級に伍して、レベルの高いG2重賞を2つ制した、
短距離、マイル戦線の名牝がいました。
その名はシンウインド “Shin Wind”。
優秀な先行力とパワフルなスピードを武器としたシンウインドは、
4歳秋にG2スワンS、5歳春にG2京王杯スプリングCに優勝、
スワンSではマックスビューティ、フレッシュボイス、
京王杯スプリングCではバンブーメモリーといった
錚々たるG1馬たちを降したシンウインドの実力は、
まさに、折り紙付きのものでした。
このシンウインドという馬名は、冠名に 「シン」 に、
父ウエスタンウインド “Western Wind” の 「ウインド」 が
付け足されたものです。
1974年にアメリカで生まれたウエスタンウインドは、
重賞勝ちこそないものの、2歳時のG1フューチュリティS、
3歳時のG1ブルーグラスSでともに3着したA級馬でした。
そして日本での種牡馬生活で送り出した極め付きの代表産駒が、
前述のシンウインドということになります。
ウエスタンウインドを日本語訳すると、「西方 (から) の風」。
世界規模の 「西風」 といえば、地球上の中緯度の地域で、
常時吹いている 「偏西風 = ジェット気流」 が有名ですが、
この偏西風は日本上空でもしっかりと吹いています。
例えて言うなら、娘であるシンウインドの大活躍は、
種牡馬ウエスタンウインドが、
日本で巻き起こした最大のジェット気流だったのでしょう。
さて、現役を退き、繁殖入りしたシンウインドは
9頭の産駒を得ることになるのですが、
その出世頭となったのが、父にタイキシャトルを持つ、
末っ子にあたる現役馬サマーウインド “Summer Wind” です。
2010年秋にG1JBCスプリントを制し、
ダート短距離戦線の頂点に立ったサマーウインドは、
さらなる高みを目指し、2011年春には、
芝G1戦の高松宮記念に挑戦しました。
ちなみに、日本における 「サマーウインド = 夏の風」 は、
一般的に南東の風ということになります。
つまり、西の風である祖父から、
深 (= シン) みを感じさせる風を吹かす母を経て、
南東から吹く、暖かく、強い風に乗ったサマーウインドが、
ついに、この 「風一族」 に念願のG1タイトルをもたらしたわけです。
近い将来、種牡馬となったサマーウインドから、
どんな風を持つ強豪産駒が登場してくるのか!?
馬名にまつわる興味は、さらに未来へと繋がっていきます。
(次回は5月18日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉