馬名ミュージアム カタカナで9文字以内アルファベットで18文字以内と定められている競走馬たちの名前。この短い言葉のなかにその馬に関わる人々の希望や祈り、そして、いにしえのホースマンが紡いできた物語を感じとることができるのです。

バックナンバー

第58回
倒語で馬名が付いた、1970年代初頭の歴史的名牝
第57回
"鷹" と "犬" が融合した2007年最優秀2歳牡馬
第56回
馬名通りに競馬ファンの "裏をかいた"、マイル戦得意な名牝
第55回
日本でG1を制した、ロンドンのストリート名が付いたアメリカ馬
第54回
世界レコードを樹立した女傑の名は、子供向けの飲み物
第53回
競馬世界の "太陽神" が持つ、複雑な性格
第52回
豊かな才能を全開にした妹を祝福する兄の快走
第51回
爽やかなカクテル名を持つ牝馬に求められるもの
第50回
母系3代に伝わる人名を馬名に戴いた天皇賞馬
第49回
絶対王者の名を冠した菊花賞馬が示した、最高の輝き
第48回
「胡蝶蘭」、「花金鳳花」 という馬名を持つ、華やかな母娘
第47回
インカ帝国の "祝祭" を現代日本に甦らせた一流中距離馬
第46回
複数の大ヒット曲のタイトルと被る、日本競馬の名牝
第45回
女性5人のチームワークとパワーが生んだ "伝説の名牝"
第44回
同じ英語を馬名に持つ、地味な日本馬と欧州のスーパーホース
第43回
「静かなアメリカ人」 が生み出したドラマと皮肉
第42回
偉大なるダンサーの名を受け継いだ記録的長寿馬
第41回
奇妙に重なり合う、同じ名を持つ作家と競走馬の運命
第40回
種牡馬としても成功した菊花賞馬と米音楽界 "ボス" との縁
第39回
"薔薇のために走れ" なかった、「5月の薔薇」
第38回
世にも怖しい名を持つ、G1レース3勝の世界的名馬
第37回
"理力 (=フォース)" を働かせて、英ダービーを圧勝!?
第36回
種牡馬入りして、さらに存在感を高めた 「義賊」
第35回
小さな花から、大きな実を成らす葡萄のように
第34回
競馬世界の織姫星と彦星は、完全なる女性上位
第33回
すべてを与えてくれるのは、いつも "サンデー" !?
第32回
そろそろ"凱旋"のときが待たれる、重賞惜敗続きの名血馬
第31回
馬名にまつわる難解さを吹き飛ばした、超一流馬の競走生活
第30回
さらば、競馬史に残る偉業を達成した地味な名種牡馬!
第29回
香港馬として初めて日本G1競走に勝った「蝦の王様」
第28回
「風神」であるダービー馬の陰に存在した無名の「雷神」
第27回
合衆国に流れ着いた男女が愛を育み誕生した灰色の幽霊」
第26回
「事務局」という名を持つ、20世紀を代表する米の名馬
第25回
ロマンティックに昇華した、夭逝した名牝の競走生活
第24回
黄金世代にも存在した、競馬の世界の "光と陰"
第23回
アルゼンチン最強牝馬の娘の名は 「恋人の日」
第22回
微妙な違和感を覚える馬名が走る米の一流父系
第21回
偉大なるチャンプの軌跡と重なる、短距離王の競走人生
第20回
馬名のスケールも競走馬としても父を上回った "道営の星"
第19回
大物バンドと仏語で繫がる気鋭種牡馬の一流産駒たち
第18回
"ハワイの大王" を父親に持つ "アカハワイミツスイ"
第17回
現代競馬を代表する名馬は、正真正銘の「世界遺産」!?
第16回
競馬世界の "ルパン3世" 的大泥棒!
第15回
欧州最優秀ステイヤーのルーツに日本の伝統芸能!?
第14回
若き日の悔恨を乗り越え、最後に辿り着いた「黄金」
第13回
馬名がトラブルを予見した!? 世界最高のマイラー
第12回
2000年代最強馬の兄はカリブの大海賊!?
第11回
"深夜の賭け"でカジノが倒産!?
第10回
あの超人気作家の処女作から名付けられた菊花賞馬
第9回
歴史的快挙を達成した父と娘の微妙な関係とは!?
第57回 "鷹" と "犬" が融合した2007年最優秀2歳牡馬

室町から戦国時代にかけて、越前を治めていた大名が朝倉氏。
その9代目当主である朝倉貞景から孝景、義景と
3代に渡る主君に仕えた名臣に、朝倉宗滴という人物がいます。
朝倉宗滴は、軍略、政治能力の双方に優れ、
乱世における、越前朝倉家の地位を大いに高めました。
また、人を見る眼の確かさにも定評があり、
尾張の国で台頭してきた若き織田信長を、
「もう少し長生きをして、その行く末を見届けたい人物」 と、
とても高く評価していたのです。
しかし、宗滴の死後、朝倉義景は織田信長との対立を深め、
最後は、“一乗寺の戦い” に敗れ、朝倉家は滅亡のときを迎えます。

名臣としてだけでなく、朝倉宗滴には、もうひとつの顔がありました。
それは、当時の日本に限らず、世界中を見渡しても、
誰も成し遂げていなかった、オオタカの繁殖に成功したことです。
オオタカは、当時の公家や武将の間で盛んだった
“鷹狩り” に用いられる、貴重な動物。
ウサギなどの小動物を捕捉し、それを飼い主の元へ運んでくる鷹狩りは、
オオタカが持つ優れた学習能力を活かした狩猟の一種ですが、
戦国時代から数えて1300年も前となる日本書記の時代から、
日本の支配階級は、この優雅かつ勇猛な遊びが大好きだったのです。
それだけに、朝倉宗滴によるオオタカの繁殖成功は、越前朝倉家の名を、
日本中の公家、大名に広める役割も果たしたと思われます。

2007年のG1朝日杯FSを逃げ切って勝利した
ゴスホークケン (Goshawk Ken) の馬名にある “ゴスホーク” は、
前述のオオタカの英名ということになります。
8分の1という、厳しい抽選を勝ち抜いて朝日杯FSに出走した
ゴスホークケンですが、
持ち前のスピードと早熟性を遺憾なく発揮しての勝利は、
まさに狙った獲物は絶対に逃さない、
“オオタカ” という馬名通りのものでした。

さて、馬名ゴスホークケンの “ケン” の部分ですが、
当初は、てっきり人名の 「ケン」 だと思っていました。
例えば、名優高倉 “健” や
クレイジーケンバンドのリーダーである横山 “剣” などの
有名人をイメージしているとか、
馬主である藤田与志男氏のご家族や友人に、
「ケン」 という名前を持った方がいるとか、
そういうことかなと捉えていたのです。
ところが、この 「ケン」 は、“犬=ケン” を指す言葉だったのです。
「オオタカと犬」 。まあ、どちらも人間の狩りに駆り出されることでは、
共通しているのですが・・・。

(次回は12月22日の水曜日にお届けします)  構成・文/関口隆哉