1番人気に推されていた
エリザベス女王の所有馬カールトンハウスら強敵を抑え、
2011年のG1英ダービーで鮮やかな追い込み勝ちを飾ったのは、
弱冠19歳のミカエル・バルザロナ騎手が手綱をとる、
フランスの名門A・ファーブル厩舎所属のプールモア “Pour Moi” でした。
10代騎手の英ダービー制覇は、1981年にシャーガーに騎乗した
ウォルター・スウィンバーン騎手以来30年振り、
仏調教馬による英ダービー制覇も、
1976年のエンペリー “Empery” 以来35年振りと、
いずれも歴史的な出来事となったのです。
さて、36年前に仏調教馬として英ダービーに勝ったエンペリーは、
1984年に大きな期待を受けて、日本に種牡馬導入されました。
ダート戦線のトップクラスとしてタフに走ったエイシンライジン、
G2NHK杯2着など、クラシック戦線を沸かせたシンボリデーバといった
活躍産駒を出した種牡馬エンペリーでしたが、
結局、重賞勝ち馬を輩出することは、叶わずに終わりました。
欧州のトップホースにありがちな「軽さ」の欠如、
気性面での難しさが、日本での大成功を阻んだ印象はありますが、
「(封建時代における) 王や皇帝の絶対的な支配権」という、
あまりに古臭い、エンペリーの馬名の意味そのものが、
現代の日本の気風に合わなかったという感じもしています。
エンペリーという、古色蒼然とした馬名は、
おそらく母パンプローナ “Pamplona”
(中世のスペイン北東部存在したナバーラ王国の首都) の名から
連想されたものと思いますが、
重厚さはあるものの、現代競馬で必要とされるスピード感には、
著しく欠ける名前であることは間違いありません。
エンペリー以来、35年振りの仏調教英ダービー馬となった
プールモアの馬名は、英語に訳すと “For me”、
つまり「わたしのために」という意味になります。
英ダービーの勝利で
10月のG1凱旋門賞の最有力候補にも躍り出たプールモアの今後は、
日本の競馬ファンにとっても、大いに気になるところですが、
あるいは現役引退後、先輩エンペリーのように、
日本に種牡馬として招かれることがあるかもしれません。
「王や皇帝の絶対的な支配権」 と違い、
プールモアの馬名は、
個人個人を大切にする現代社会の風潮に合ったもの。
それだけに、もし、日本へ導入ということがあれば、
結構な成功を収めるのではないかと予感されるのです。
(次回は7月13日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉