1961年にアメリカで生まれた、
バッシュフルガール “Bashful Girl” という牝馬がいます。
この馬名を日本語に訳すと、
「恥ずかしがり屋の女の子」 といったところでしょうか。
繁殖牝馬となったバッシュフルガールが産んだ牝駒が、
フォーワードフライト “Forward Flight”。
これからの時代、母のような内気な女性ではいけないと考えたのか、
「未来に向かって飛び立つ!」 という極めて前向き馬名が、
この1967年に米で生まれた牝馬には付けられたのです。
繁殖牝馬として日本に導入されたフォーワードフライトは、
その孫から、とてつもない大物を輩出することになります。
1990年に父トニービン、母シャダイフライトという血統から誕生した
牝駒ノースフライト “North Flight” が、その馬。
3歳5月の遅いデビューとなったノースフライトですが、
その年の秋、デビュー4戦目となるG3府中牝馬Sで重賞初制覇を飾り、
続くG1エリザベス女王杯でもホクトベガの2着に頑張りました。
4歳になってからは、更なる充実を示し、
G1安田記念、G1マイルCSとマイルG1競走を連覇。
11戦8勝(うち重賞6勝)の見事な通算成績を残したノースフライトは、
「マイルの女帝」 という異名を戴く、
1990年代を代表する名牝の一頭となったのです。
ところで、「北への飛行」 という馬名を持つノースフライトですが、
札幌、函館といった北海道の競馬場では、一度もレースを走っていません。
繁殖牝馬となったノースフライトの代表産駒である
ミスキャスト “Miscast” も、OP特別ブリンシパルSなど、
計5勝をあげた強豪馬でしたが、北海道の競馬場では未勝利。
出走そのものがなかった母ノースフライトと違い、
ミスキャストは4歳夏に、函館、札幌で計3走したのですが、
1、3、2番人気に推されたものの、13、12、4着と、
人気を大きく裏切る結果しか残せませんでした。
ただし、ミスキャスト以外のノースフライト産駒である
キコウシ、フェルメールブルーは、いずれも北海道の競馬場で
勝ち鞍を記録していますから、ノースフライトの血筋が、
北の大地とまったく縁がない訳でもないようです。
あるいは、ミスキャストの北海道での不振は、
「役柄に合わない配役」 という、
自身の馬名の意味から来ていたのかもしれません。
偉大な母の名前から大きな期待を担ってしまったが、
実は、平坦、小回りが苦手。
まさに、函館や札幌でのミスキャストは、
「役柄に合わない配役」 を強いられていたのかもしれません。
そういえば、マイル~2000m前後の距離を得意としたミスキャストですが、
種牡馬として送り出したG1菊花賞3着馬ビートブラックは、
生粋のステイヤータイプ。
このあたりにも、“ミスキャスト” という馬名が活きている気がします。
(次回は6月8日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉