室町時代に、海の向こうの明 (みん) から伝わり、
日本の織物の中心地である京都・西陣で発展してきた
最高級の染織物が、金襴緞子 (きんらんどんす) です。
「金襴緞子の帯しめながら、花嫁御料は何故泣くのだろう」
という唄の歌詞でも有名な金襴緞子は、
金糸や銀糸を含む多彩な色の糸で、華やかな文様を織ったものです。
金襴緞子のような、文様を浮き出させた織物のことを
英語で “Brocade (ブロケード)” と言います。
2010年秋に32歳という長寿を全うして天国へと旅立った
1981年の桜花賞馬ブロケードは、この英単語から馬名が付けられました。
トライアル重賞4歳牝馬特別勝ちを含む3戦全勝の戦績を残していた
ブロケードは、堂々の1番人気に推されて桜花賞に出走、
泥田のような不良馬場をものともしないパワフルなスピードを発揮し、
3馬身半差の快勝で、牝馬クラシックウイナーの栄誉に輝いたのです。
そして、レース振りの素晴らしさとともに、
関西テレビの名物競馬アナ、杉本清氏の
「金襴緞子が泥にまみれてゴールイン!」 という名実況も、
ブロケードの名を、大いに高めることとなりました。
桜花賞の後も、牝馬東タイ杯、スプリンターズSと
重賞タイトルを重ねたブロケードは、
当時の牝馬最高賞金額を獲得して、現役を引退、
6歳春から繁殖牝馬としての生活を開始しました。
産駒には、重賞級の大物は出せなかったものの、
その子孫から、G3アイビスサマーダッシュ勝ちのサチノスイーティー、
ダートG3グランシャリオC馬マイシーズン、
公営大井の東京ダービーを制したアンパサンド、
G3マーチS、G3アンタレスSでともに2着したナニハトモアレといった
強豪馬たちを送り出しています。
上記の馬たちは、織物に直接関連した名前の持ち主ではありませんが、
サチノスイーティーの 「スイーティー」 は、
グレープフルーツとブンタンの混合種である果物の名
アンパサンドは 「&(アンド)」 のラテン語読みと、
多彩な糸のハーモニーにより紡ぎ出されたブロケードのように、
複数のものが、織り交ざった感じを醸し出しているのです。
(次回は3月16日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉