1981年に封切られた米・香港合作映画に、
『キャノンボール “The Cannonball Run” 』 という傑作があります。
カーマニアたちが自慢の市販車を駆って世界各地から集まり、
非合法で行われる北米大陸横断レース(= 通称 “キャノンボール” )を
戦うという、ある意味、ファンタジックなお話なのですが、
超ド派手なカーアクションと
バート・レイノルズ、ファラ・フォーセット、サミー・デーヴィスJr、
ディーン・マーティン、ジャッキー・チェンら、
絢爛豪華なオールスターキャストが売りの、この映画は、
まさに肩の凝らない、一級品のエンターテインメントに仕上がったのです。
このキャノンボールに参加するメンバーのなかに、
財閥の御曹司で、俳優をしているという設定の、
ちょっと鼻持ちならない男がいます。
“ロジャー・ムーア” という芸名で、役者をしている、
このキザ野郎を演じるのは、そのものズバリ、英の名優ロジャー・ムーア!
『007シリーズ』 の3代目ジェームズ・ボンド役でも知られる
ロジャー・ムーアは、なんとボンド・カーをパートナーに、
キャノンボールに参戦してくるのです。
当然、煙幕を張ったり、オイルを撒いたり、武器を使用したりと、
ロジャー・ムーアはボンド・カーの特性を活かして、
レースを有利に進めようとするのですが、
ことごとく裏目に出て、自分の方が被害を受けてしまうのが、
『キャノンボール』 の見どころのひとつとなっているわけです。
さて、このボンド・カーですが、ベースとなっているのは、
アストンマーチン・DB5という、
英国で作られた、れっきとした市販車。
もちろん、売られているアストンマーチン・DB5には、
煙幕装置や武器は装備されてはいませんが、
スタイリッシュな高級スポーツカーとして、
世界中の車好きたちの間で、
極めて高い評価を獲得している名車中の名車でもあるのです。
日本競馬界にも、アストンマーチンに因んで馬名を付けられた、
名牝が存在します。
その名をアストンマーチャン。
アストンマーチン “Aston Martin” とは、共同創業者である
アストン・クリントン、ライオネル・マーティン氏の
名前からとられたものですが、
アストンマーチャン “Aston Marchan” の 「マーチャン」 は、
馬主である戸佐眞弓氏の愛称から、とられたものだそうです。
2歳夏のG3小倉2歳Sで重賞初制覇を飾り、
その後、G3ファンタジーS、
3歳になってからのG2フィリーズレビューで重賞タイトルを重ねた
アストンマーチャンは、3歳秋のG1スプリンターズSに勝ち、
若くして、芝短距離戦線の頂点に立ちます。
そして4歳4月に病気のために急逝。
レース振りも、その競走馬人生も、
馬名の由来となった高級スポーツカーの如く、
高速で駆け抜けたアストンマーチャンは、
2000年代後半を代表する、正真正銘のスピードスターでした。
(次回は9月7の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉