ほんの数年前まで、JRAで行われるレースに、
「抽せん馬」 と呼ばれる馬たちが出走していました。
これは、セリ市でJRAが購入し、
北海道浦河町か、宮崎県宮崎市の牧場で育成、
その後、購入を希望する馬主に抽せんで配布した馬たちのことで、
競馬新聞の出馬表の馬名の上に、
「(マルチュウ)」 の文字が付されていました。
現在に比べれば、セリ市で購買される競走馬がはるかに少なかった時代、
セリ市を活性化し、中小生産牧場の保護にも繋がる抽せん馬制度は、
なかなかに有意義なものでもあったのです。
圧倒的な少数派であり、なおかつ非エリート競走馬の象徴でもあった
抽せん馬ですが、歴史を遡ってみると、
有馬記念を制した名牝スターロッチ、
ともにオークス馬となったファイブホープ、イソノルーブルといった
超大物も出ています。
1980年代半ばに、「抽せん馬の星」 という
ニックネームで呼ばれていた強豪牝馬がコーセイです。
285万円でJRAが購入し、430万円で馬主に頒布されたコーセイは、
2歳時にG3・3歳牝馬Sを制したのを皮切りに、
3歳時にG2・4歳牝馬特別 (桜花賞TR)、4歳時にG3七夕賞、
さらに5歳時にG2中山記念と、重賞を計4勝。
抽せん馬としては最多 (当時)、そして頒布額の約50倍となる、
2億1680万円の生涯賞金を稼ぎ出しました。
さて、コーセイの馬名の由来は 「恒星」 から。
恒星とは、自らが光を発するガス体の天体ことで、
地球の付近では、太陽が、これに当てはまります。
ちなみに、コーセイの2歳上のいとこに、
G3京王杯オータムHで2着したダイワタイヨーという馬がいるのですが、
どうも、コーセイたちが属する一族は、
太陽絡みの馬名と相性が良いようです。
JRAが抽せんで馬主に競走馬を頒布する制度自体が、
2004年度で廃止されたこともあり、
抽せん馬という名称が付く馬は存在しなくなりました。
そして、「抽せん馬の星」 コーセイも、
繁殖牝馬として大きな成果をあげることは出来ず、
その名前がニュースとなることも、ほとんどありません。
しかし、大きな流星を持つ個性的な顔立ちと、
切れ味鋭い走りを誇った名牝コーセイは、
その馬名通り、いまもベテラン競馬ファンの心の中で輝き続けているのです。
(次回は3月2日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉