現代アメリカ文学を代表する作家である
カート・ヴォネガッド “Kurt Vonnegut” が、
その作品のなかで創作した宗教に、
ボコノン教 “Bokononism” というものがあります。
「フォーマ (無害な非真実) を生きるよすべとしなさい」
という教義を持つボコノン教は、
人間の持つ強さ、愚かさ、哀愁などを強く感じさせてくれる、
なかなかに魅力的な宗教です。
したがって、ヴォネガッドが創り出した架空の宗教とはいえ、
ボコノン教徒であることを公言する人は、全世界に多数存在しているのです
このボコノン教が登場する、
カート・ヴォネガッド作品が 『猫のゆりかご “Cat’s Cradle” 』 (1963年)。
広島への原爆投下の日に、アメリカの主要人物が何をしていたか、
というテーマの本を書こうとしたことが、
この作品誕生のきっかけと、ヴォネガッド自身は語っていますが、
ボコノン教という宗教とともに、
最終兵器アイスナイン “Ice Nine” による世界の終末が、
『猫のゆりかご』 では、ときにユーモラスに、
ときにシリアスに描かれていきます。
「猫のゆりかご “Cat’s Cradle” 」 とは、
アメリカのあやとり遊びで出来上がる作品のことで、
日本のあやとりで例えれば、
“ほうき” とか “東京タワー” のようなものと言えるでしょう。
ちなみに、作品の重要な登場人物であるフェリックス・ハニカーは、
広島原爆投下の日に、「猫のゆりかご」 を編んで遊んでいました。
さて、米の競馬界には、「猫のゆりかご」 を馬名とする一流馬がいます。
G2エイコーンS、G2ファンタジーS勝ちを含む計10勝をあげた、
1992年生まれのキャッツクレイドル “Cat’s Cradle” が、その馬。
母タングルド “Tangled” には、
「結び目などが絡み合った」 という意味がありますから、
そこから、あやとり遊びの “キャッツクレイドル” が連想されたのでしょう。
なお、タングルドの妹にあたるのが、
日本のG1馬で、現在は種牡馬として活躍中であるゼンノロブロイの
母でもある米G1馬ローミンレイチェル。
つまりキャッツクレイドルとゼンノロブロイは、
いとこ同士となるわけです。
(次回は2月23日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉