G1タイトルにこそ恵まれなかったものの、
G2中山記念、G2マイラーズCを2回ずつ制し、
欧州に遠征したG1ムーランドロンシャン賞でも2着した
個性派の名競走馬ローエングリン (Lohengrin)。
この馬名は、19世紀ドイツの大作曲家ワグナーが
曲と台本を書いたオペラ作品に由来しています。
そして、騎士と公女の悲劇的なロマンスが描かれた
オペラ 『ローエングリン』 の舞台は、
ベルギー第二の都市であるアントワープ。
あくまで、“気分” ではありますが、ローエングリンという馬名で、
われわれはドイツとベルギーという
欧州2カ国を旅することが可能なのです。
ローエングリンの3歳下の半弟となるのが、計5勝をマークし、
G3ダイヤモンドSで2着したブレーヴハート (Brave Heart)。
マイラーだった兄とは違い、中長距離戦で本領を発揮した、
この半弟の馬名は、メル・ギブソンが監督、主演を務め、
アカデミー賞作品賞を受賞した、
アメリカ映画 『ブレイブハート』 (Braveheart) を想起させてくれます。
映画 『ブレイブハート』 の舞台は、13世紀末のスコットランド。
競走馬ブレーヴハートも、スコットランド、アメリカという、
2カ国を旅した気分になれる馬名の持ち主です。
ローエングリンの兄弟には、ブレーヴハートのほかにも、
イングランドのダービー郡を馬名とした、
ダービーカウンティ (Derby County)、
19世紀のロシアに登場した作曲家の名を冠した
チャイコフスキー (Tchaikovsky)、
現代でいえば、イタリア、フランス、スペイン、ギリシャ、
北アフリカ諸国など広大な領地を保有していたローマ帝国の公用語、
ラテン語で 「自由」 を意味する言葉を馬名とした
現役馬リベルタス (Libertas) と、
数多くの国々を連想させてくれる名前の馬たちが揃っているのです。
また、ローエングリン兄弟のなかには、
現実のものではない国に連れていってくれる馬もいます。
それは、2歳下の半弟となる4勝馬レゴラス (Legolas)。
レゴラスは、20世紀ファンタジー小説の最高峰ともいわれる、
J・R・Rトールキン作 『指輪物語』 の登場人物の名前です。
『指輪物語』 の舞台は、
トールキンが創り上げた架空の他民族国家、「中つ国」 (Middle-Earth)。
まあ、『指輪物語』 を下敷きとした、
映画 『ロード・オブ・ザ・リング』 (The Road of the Rings) で、
映像化された “中つ国” は、
旅をするには、治安面や快適さ、便利さの上で、
かなり厳しい土地ではありましたが・・・。
(次回は1月5日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉