個人的な話で恐縮なのですが、生まれて初めて飲んだカクテルは、
“バイオレットフィズ” でした。
バイオレットリキュールの芳醇な風味、
炭酸が効いていて、スイスイと口に入っていく飲みやすさ、
そして、美しい紫色を湛えた、とても綺麗な色彩。
普段、トリス・ウイスキーの水割りばかりを飲んでいた大学生にとって、
まさしくバイオレットフィズは、衝撃的な飲み物だったのです。
とはいえ、初めてカクテルを飲んだ
行きつけのバー (信じられないほど値段が安い店でもありました) が、
店じまいしてしまったこともあり、
カクテルに凝った時期は、そう長くは続きませんでした。
競走馬アプリコットフィズの名前を最初に眼にしたとき、
最初に頭に浮かんだのは、
その昔に飲んだバイオレットフィズのことでした。
ちなみにカクテルのアプリコットフィズは、
アプリコットブランデーをベースに、
レモンジュース、砂糖、炭酸水などを加えて作り、
バイオレットフィズと同様に、とても飲みやすい、
どちらかと言えば、女性向きの飲み物です。
小柄で可憐なルックスの牝駒に、このカクテルの名前を付けたのは、
極めてセンスの良いネーミングなのではないでしょうか。
アプリコットフィズの母馬はマンハッタンフィズ。
こちらもカクテルの名で、ウィスキーをベースに、
ベルモット、ビターズ、レモンの皮、
そして炭酸 (シャンパンを使用することもあるそうです) などを加えた、
甘さと苦味を合わせ持った、濃厚な飲み物です。
アプリコットフィズが、若い娘が醸し出す清純な味わいだとしたら
マンハッタンフィズは、
熟女の艶っぽさを全面に出したカクテルと言えるかもしれません。
クイーンC、クイーンSとG3重賞をふたつ制しながらも、
桜花賞5着、オークス6着、秋華賞3着と、
G1競走では、後一歩が足りないアプリコットフィズ。
母の馬名のような、大人の女性の濃厚な雰囲気が身に付けば、
もう一歩、突き抜けた存在になれる気がします。
(次回は11月10日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉