『第三の男』 、『逃亡者』 、『ハバナの男』 など、
その著作が多数映画化されている、
作家グレアム・グリーン (Graham Greene) は、
1904年に英国に生まれ、1991年にスイスで亡くなりました。
村上春樹氏が受賞したことで、日本でも有名になったエルサレム賞を
1981年に与えられているグレアム・グリーンですが、
決して、純文学一本やりというわけではなく、
エンターメント性を重視した、面白くて読みやすい作品が多い、
非常にとっつきやすい作家でもあるのです。
そのグレアム・グリーンが1955年に発表した小説が、
『おとなしいアメリカ人 (The Quiet Man) 』。
そして、この物語を基に映画化されたのが、
1958年の『静かなアメリカ人 (The Quiet American) 』、
そのリメイクであり、より原作に近いとされる、
2002年の『愛の落日 (原題は同じ “The Quiet American” ) 』
ということになります。
第一次インドシナ戦争中のサイゴンを舞台に、
軍事顧問団としてサイゴンに赴任した、理想に燃えるアメリカ人、
イギリスから派遣された新聞記者 ( 『愛の落日』 で、この役を演じた
マイケル・ケインは、ロンドン批評家協会主演男優賞を受賞しています)、
二人が恋に落ちる美しきベトナム人女性の三角関係を軸に、
ストーリーは進んでいくのですが、
それと同時に、善意の陰に隠れて、世界を意のままにしようと企む、
大国アメリカの野望、その国に住むエリートの独善的な行動も、
批判的な視点で描かれていきます。
当然、アメリカ合衆国政府としては、反米的な傾向を持つ、
このイギリス人作家のことが気に入らず、
米への入国を拒否したこともあったのです。
映画版の原題と同じ馬名を持つのが、
1986年にアメリカで生産され、グレアム・グリーンの母国である、
イギリスのサー・マイケル・スタウト厩舎から競走馬デビューした
クワイエットアメリカン (Quiet American) です。
イギリスでは芽が出なかったクワイエットアメリカンですが、
3歳時に米のゲーリー・ジョーンズ厩舎に移籍してから本格化し、
4歳秋のNYRAマイルで初G1制覇を達成します。
現役引退後、米で種牡馬となったクワイエットアメリカンの代表産駒が、
1998年にG1ケンタッキーダービー、
G1プリークネスSを連覇したリアルクワイエット (Real Quiet)。
反米的な作品が馬名の由来となった父の産駒が、
アメリカ競馬を象徴する、大レース中の大レースを制したことは、
ドラマチックであると共に、
かなりの皮肉が効いた出来事だったのではないでしょうか
(次回は9月15日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉