1970年代後半から1980年代前半にかけて、大きな人気を博した
アメリカのシンガーソングライターに、
ダン・フォーゲルバーグ (1951~2007) というアーチストがいます。
1981年に発表された、彼にとっての最大のヒットアルバムが、
『イノセント・エイジ “The Innocent Age” 』 。
この2枚組の大作アルバム収録されている代表曲のひとつが、
シングルカットもされた、“Run for the Roses” です。
ゆったりとした美しいメロディと、
ダン・フォーゲルバーグの
繊細さとスケールの大きさを兼備したヴォーカル、
そして競馬ファンにとっては、競馬の世界を真正面から取り上げた
歌詞の内容こそが、この名曲の肝中の肝となっているのです。
“Run for the Roses” は、ケンタッキー州の牧場で生まれた仔馬に、
人間が語りかける形式で、曲が進んでいきます。
そして、サビの部分の締め括りとなるのが、
「最高の舞台で、キミが一世一代のダンスを踊れますように」 という歌詞。
ここでいう “最高の舞台” とは、タイトルにもなっている “Run for the Roses” 、
つまり、毎年5月の第一土曜日に、チャーチルダウンズ競馬場で行なわれる、
3歳限定のG1戦ケンタッキーダービーのことです。
ケンタッキーダービーを制した競走馬に贈られる薔薇のレイにちなみ、
このレースには、“Run for the Roses (薔薇のために走れ)” という
別称が与えられているのです。
現代の日本で活躍している種牡馬のなかにも、
”Run for the Roses“ に似た意味を表わす馬名の持ち主がいます。
2010年夏からデビューした2年目産駒から、
G3函館2歳Sで2着のマイネショコラーデなどを出している、
ロージズインメイ (Roses in May) が、その馬。
ところが、 「5月の薔薇」 という
ケンタッキーダービーを十二分に意識した馬名を持ちながら、
ロージズインメイの競走馬デビューは、3歳5月までズレ込んでしまい、
ケンタッキーダービー制覇はもちろん、
レース出走すら叶わぬ夢となりました。
4歳以降に本格化したロージズインメイは、
5歳春にG1ドバイワールドCを圧勝する、世界的名馬となりました。
もちろん、種牡馬としての最大目標は、自身が果たせなかった
ダービー制覇を、産駒が現実のものとしてくれること。
ちなみに、ケンタッキーダービーが行なわれる季節の
チャーチルダウンズ競馬場同様、
日本ダービーが行なわれる時期の東京競馬場内のバラ園にも、
鮮やかなピンク色をした大輪の花が咲き誇っているのです。
(次回は8月18日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉