1965年生まれで、40歳代半ばになった現在も、現役で活躍している
超一流ボクサーがアメリカにいます。
その名をバーナード・ホプキンス。
世界4大団体のミドル級タイトルを統一したホプキンスは、
オスカー・デラホーヤ、フェリックス・トリニダードといった
アイドル的人気の高いスーパースターたちを打ち破ってきたこともあり、
敵役の印象が強いボクサーでもあります。
そんな彼に与えられた、ぴったりのニックネームが “The Executioner” 。
日本語に訳すと 「死刑執行人」 ということになりますが、
ホプキンスは死刑執行時に身に着ける衣装をガウン代わりにしたり、
棺桶に納まってリングに入場してきたりといった、
ややワル乗り気味のパフォーマンスを繰り広げたこともあったのです。
競馬の世界にも、バーナード・ホプキンスのニックネームに負けない、
不吉な馬名を持つものがいます。
アメリカで生産され、欧州UAEで走った
“エレクトロキューショニストElectrocutionist” が、その馬。
馬名を日本語に訳すと、
「電気椅子による死刑執行人」 ということになるのです。
おそらくこの名前は、父レッドランサム “Red Ransom” の
“Ransom= (誘拐などによる)身の代金”
という単語からの連想かと思われますが、
それにしても、最初のオーナーは、
ずいぶんと刺激的な馬名を付けたものです。
エレクトロキューショニストは、日本の競馬ファンにとっても、
強い印象を残した名馬でした。
それまでに主戦場にしていたイタリアを離れ、
初めて海外で出走した2005年の英G1インターナショナルSでは、
ゼンノロブロイをクビ差抑えての勝利。
5歳となった2006年3月には、G1ドバイワールドCに出走し、
カネヒキリ (4着) らを完璧に抑え、ダート競馬の頂点に立ちました。
また、2006年のG1Kジョージ6世&QエリザベスSでは、
前年の欧州年度代表馬ハリケーンラン、
日本から遠征してきたハーツクライと壮絶な叩き合いを演じ、
勝ったハリケーンランから半馬身差の2着。
3着ハーツクライに対しては、半馬身差先着したのです。
日本馬にとって高い壁となったエレクトロキューショニストは、
馬名通り、自分の仕事に極めて忠実な、
なかなかに魅力的な佇まいを持つ競走馬でした。
ところが、前述の “Kジョージ” の2カ月後、
エレクトロキューショニストは心臓麻痺を起こして急死してしまいます。
でき得れば、ボクシング界の 「死刑執行人」 ホプキンスのように、
高齢になっても、若い馬たちに競馬の厳しさを示し続ける
エレクトロキューショニストの姿を見てみたかったと思っています。
(次回は8月11日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉