七夕といえば、織姫星と彦星が年に一度の逢瀬を果たす夜ですが、
実は、この二人、れっきとした元夫婦でもあるのです。
織姫星は、宇宙を司る天帝の娘。
正真正銘のお嬢様にも関わらず、気立ての良い働き者で、
織物の腕は一級品でした。
一方の彦星も、牛追いを生業とする仕事熱心な青年。
天帝は、安心して二人の結婚を許可したのですが、
実際に結婚生活が始まると、あまりの楽しさに溺れてしまい、
織姫星は機を織ることをさぼりにさぼり、
彦星も、まったく牛を追うことをしなくなってしまったのです。
織姫星と彦星の暮らしぶりに激怒した天帝は、
二人を引き離すことを決定します。
とはいえ、実の娘である織姫星を不憫に思ったのか、
天帝は、年に一度、七夕の夜だけは、
天の川に橋を架け、この元夫婦が再会できるように、取り計らったのです。
(ただし、雨が降ると、天の川に橋を架けることが不可能になり、
二人の再会は、翌年まで持ちこされてしまいます)
さて、織姫星を英語で表わすと “Vega=ベガ” 。
そう、1993年の桜花賞、オークスの牝馬二冠を制した名牝ベガは、
織姫星の英語名を、そのまま馬名としているのです。
これはこじつけですが、ベガの競走生活に当てはめると、
デビュー戦から牝馬二冠獲得を経て、3歳秋のエリザベス女王杯3着までが、
熱心に機織に勤しんでいた頃の織姫星、
そして大敗が続いた3歳暮れの有馬記念と古馬になってからの2戦が、
結婚後ということになるのではないでしょうか。
ただし、競走馬ベガは、織姫星とは違い、
子供たちを産んでから、再び輝きを取り戻しました。
G1ダービー馬アドマイヤベガ、
JBCクラシック3連覇など、G1戦7勝の砂の勇者アドマイヤドン、
G2セントライト記念を勝ったアドマイヤボス、
G3東京新聞杯2着の現役馬キャプテンベガなどの産駒を出したベガは、
日本競馬史上屈指の名繁殖牝馬と呼ばれるようになったのです。
一方、織姫星の逢瀬の相手である彦星は、アラビア語を語源とする、
“Altair=アルタイル” の名でも知られています。
ベガ同様、アルタイルという馬名を持つ競走馬もいて、
ベガと同時期に中央競馬で走り3戦0勝の戦績を残した牡馬、
公営南関東で5勝をあげている現役牝馬が、これに当てはまります。
“ベガ” 絡みの馬名を付けられた馬たちには、
名牝ベガとその息仔であるアドマイヤベガ
さらには、ベガを降して1993年のG1エリザベス女王杯を制した
ホクトベガといった名馬たちがキラ星の如く揃っていますが、
“アルタイル” 絡みの方は、現役馬ブラックアルタイルが、
2008年のG2・AJCCで3着したのが目立つ程度。
競馬世界での夫婦格差を解消するためにも、
馬名に “アルタイル” が付いた大物が今後登場することを願っています。
(次回は7月14日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉