2000年のG1安田記念は、絶対的な中心馬が不在で、
単勝オッズ4.5倍の1番人気スティンガーを筆頭に、
ブラックホーク、キングヘイロー、シンボリインディ、
アドマイヤカイザー、ディクタット、イーグルカフェと、
単勝10倍以下の馬が7頭も出る、大混戦になりました。
このとき、シェイク・モハメド殿下が率いる
“チームゴドルフィン” 所属のディクタットとともに
安田記念に参戦していた外国馬が、
香港の新進気鋭フェアリーキングプローンです。
香港競馬への評価が、まだ低かった時期ということもあって、
フェアリーキングプローンは、
単勝39.9倍の10番人気に甘んじていましたが、
カタカナで12文字に及ぶ、その馬名は、パッと見ただけでも、
かなりのインパクトがあるものでした。
当初、フェアリーキングプローン (Fairy King Prawn) という馬名から、
このオーストラリアで生まれた香港のニュースターは、
「欧州の至宝」 サドラーズウェルズの全弟で、
やはりヨーロッパのトップ種牡馬である
フェアリーキング (Fairy King) の産駒だと思っていました。
ところが、五代血統表を見てみると、
父馬は 「世界最強シャトル種牡馬」 デインヒルで、
フェアリーキングの名はどこにも見当たらないのです。
では、“フェアリーキングプローン” とは、どういう意味なのか?
その肝は、キングプローン (King Prawn) という単語にありました。
漢字での馬名表記では、「蝦王」 。
つまり、香港人たちが好んで食べる蝦 (エビ) のなかでも最上級の味を誇る、
「蝦の王様」 こそが、キングプローンなのです。
馬名の冒頭に付く “Fairy” は、キングプローンにかかる形容詞で、
日本語に訳せば、
「この世のものとは思えないくらいに美味しい蝦の王様」 という感じでしょうか。
実際、香港で食べる蝦は、本当に美味しいものです。
特に、大鍋でボイルされた蝦に、辛いタレを付けて食す 「茹で蝦」 は、
シンプルでありながら、食べることが止まらなくなる、
まさに絶品料理と呼べるものだと思っています。
2000年の安田記念におけるフェアリーキングプローンも、
地元香港の “茹で蝦” のように、シンプルで味のある走りを見せました。
道中は中団後方でジッと息を潜め、直線で末脚を爆発させる、
東京競馬場芝マイル戦でもっとも効果を発揮するレース振りで、
戦前の低評価を覆す完勝!
そして、香港馬初の日本でのG1戦勝利が高く評価され、
フェアリーキングプローンは1999/2000年シーズンの
香港年度代表馬にも選出されました。
「蝦の王様」 は、競馬の世界でも、見事に “キング” へと昇り詰めたのです。
(次回は6月9日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉