国際連合 (国連) の主要機関のひとつに、国連事務局という組織があります。
各国の利害が複雑に渦巻くなかで、中立的な立場から、
国連が決めた活動方針や政策を実施することが、
国連事務局に与えられた大きな役割となるわけです。
ちなみに、8代目となる現在の事務総長は、
韓国出身の藩基文 (バン・ギムン) 氏が務めています。
さて、この国連事務局を英語で表記すると “United Nations Secretariat” 。
熱心な競馬ファンなら、ピンと来たかもしれませんが、
事務局を表わす英単語 “セクレタリアト” こそが、
1973年米3冠馬の馬名の由来となっているのです。
競走馬セクレタリアトは、
1970年3月に、米ヴァージニア州にあるメドウ牧場で生まれました。
天然ガスの発掘に成功して巨万の富を得た、
米実業界の大立者クリストファー・シナリー氏が所有していたメドウ牧場は、
18ホールのゴルフ場や、壮麗なゲストハウスが備えられた、
超高級別荘のような造りでしたが、
金持ちの道楽とばかりは言い難い、素晴らしい実績も収めていました。
ケンタッキーダービー、ベルモントSの米2冠を制したリヴァリッジ、
米年度代表馬に選ばれたヒルプリンス、米牝馬賞金王シカダなどは、
いずれもメドウ牧場の生産馬。
そして、牧場の最高傑作となったのが、
「ビッグレッド」 の愛称で呼ばれ、権威ある雑誌 『タイム』 の表紙も飾った、
米の国民的英雄セクレタリアトだったのです。
生涯戦績21戦16勝。
2、3歳時と2年連続米年度代表馬選出。
3歳3冠全戦を含む、計6度のレコードタイム樹立。
3冠最終戦のG1ベルモントSにおける31馬身差の勝利。
これら、圧倒的なまでの実績を残したセクレタリアトは、
タイム誌が選ぶ 「20世紀のアスリートベスト10」 にも選出されました。
父ボールドルーラー (Bold Ruler) の馬名は、「大胆な支配者」 という意味。
そんな父の暴走 (?) を抑える目的で、
国連事務局から名をとったように思えるセクレタリアトですが、
実際は、父の馬名も国際連合も関係はありません。
この馬名は、メドウ牧場の事務を一手に取り仕切っていた、
エリザベス・ハム氏に対する日頃の謝意を表わすために、
オーナーであるC・シナリー氏が付けたもの。
そして、豪華な造りを誇るメドウ牧場の 「事務局」 のように、
セクレタリアトも極めてゴージャスな競走馬人生を送ったのです。
(次回は5月19日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉