「馬勒(ばろく)」 と呼ばれる馬具があります。
これは、頭絡、ハミ、手綱からなるもので、
基本的に、鞍や鐙を使わないモンゴルの騎馬民族も、
馬勒だけは装着して馬に乗っているそうです。
この 「馬勒」、英語では “Bridle” (ブライドル)といいます。
3歳時にG1ケンタッキーダービー、G1ブリーダーズCクラシックを制し、
1990年米3歳牡馬チャンピオンに選出された
アンブライドルド(Unbridled)の馬名を日本語に直訳すれば、
「馬勒を外した」、「馬勒を装着しない」 という意味になります。
また、“Unbridled” には、「抑制するものがない」、
転じて 「乱暴な」 という意味もあるそうです。
競走馬として大成したアンブライドルドは、種牡馬としても成功を収めます。
親仔二代のケンタッキーダービー馬グライドストーン(Grind Stone)、
G1ブリーダーズCジュヴェナイルを制した米2歳牡馬王者である、
アンブライドルズソング(Unbridled Song)、
G1ブリーダーズCジュヴェナイルフィリーズを勝ち、
米2歳牝馬チャンピオンに選ばれたハーフブライドルド(Half Bridled)
G1ベルモントSを勝ったエンパイアメーカー(Empire Maker)、
日本で走り、G3富士S、G3中山牝馬Sを制した
レッドチリペッパー(Red Chili Pepper)といったところが、
種牡馬アンブライドルドの代表産駒となっています。
ところで、上記のアンブライドルド産駒たちの馬名を、
よくよく見てみると、それぞれが微妙にヘンだと、思えてくるのです。
グライドストーンとは、「研磨機」 のこと。
まあ、これは 「摩擦なくスムースに走れるように」 という
意味合いかとは思うのですが、
競走馬の名前としてはいかがなものかという気もします。
また、「馬勒を外した歌」(アンブライドルドソング)とは、
いったいどういう歌なのか、
「半分だけ馬勒を付けた」(ハーフブライドルド)状態では、
逆に危ないのではないか、という疑問も募ってきます。
さらに、「帝国を築く者」(エンパイアメーカー)が、
「抑制するものがいない暴れもの」 では、
地球の平和を乱す、超独裁国家になりかねません。
そして、馬具に因んだ名を持つ父親の娘が、
なぜ、香辛料である 「唐辛子ペッパー」(レッドチリペッパー)
となるのかも、やはり、よく分からないのです。
アンブライドルドは2001年に死亡してしまいましたが、
アンブライドルズソング、グラインドストーン、
エンパイアメーカーといった牡駒の代表産駒たちは、
揃って後継種牡馬となりました。
例えば、「帝国を築く者」 の息仔でありながら、相当にスケールダウンした、
カントリースター(Country Star “片田舎の人気者” )という
馬名を持った米2歳G1馬も出ていますし、
この系統を受け継ぐ、どこか違和感を覚えるような馬名の持ち主には、
今後も注目が必要でしょう。
(次回は4月21日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉