日本最高級の種牡馬たちが集う
社台スタリオンステーションの屋台骨を支えてきた
名サイアーの一頭が、1991年に種牡馬生活を開始し、
2004年に17歳で死亡したジェイドロバリーです。
歴史的大種牡馬サンデーサイレンスの同期生ということもあり、
その印象は、やや地味ではありましたが、
1996年から5年連続でサイアーランキングトップ5入りを果すなど、
その実力は、間違いなく本物でした。
ジェイドロバリー(Jade Robbery)という馬名を
日本語に訳すと「翡翠泥棒」。
翡翠(=Jade)とは、深緑の美しい色を湛えた半透明の宝石で、
古代中国では 「玉(ぎょく)」 と呼ばれた、
とてもとても貴重で、高価なものです。
そして、超高級品である翡翠を狙う泥棒(=Robbery)、
ジェイドロバリーは、あのルパン3世のような、
華麗で知能犯的なイメージが漂う馬名だという気がします。
ジェイドロバリー産駒にも、
父にインズパイアされた馬名を持つものが多数存在しています。
公営盛岡で行われた交流重賞南部杯を制し、
現時点で、日本における唯一のG1勝ち牡駒となっている
タイキシャーロック(Taiki Sherlock)は、
イギリスの作家アーサー・コナン・ドイルが創作した、
名探偵シャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)に因んで
馬名が付けられています。
また、G3ダービー卿チャレンジTに勝ち、
ディープインパクトの帯同馬として仏に遠征した際には、
当地のG2ダニエルウィルデンシュタイン賞で2着した
ピカレスクコート(Picaresque Coat)は、
「犯罪者がまとう外套」 という、
昭和初期の超人気作家江戸川乱歩が創り上げたダークヒーロー、
怪人二十面相を連想させる馬名が付けられています。
上記のジェイドロバリー産駒2頭は、
犯罪絡みの馬名といっても、父同様、
知的な雰囲気が色濃く漂っています。
ところが、イギリスにリース供用されていた時代の産駒で、
2歳G1伊グランクリテウムの勝ち馬であるカークレス(Kirkless)は、
少し印象が違う馬名の持ち主です。
イギリス北部で 「教会」 を指す “Kirk” が、
“less” 「いらない、必要としない」 なわけですから、
これは、相当にアナーキーな犯罪の匂いがします。
もっとも、カークレスが狂気を含んだような、
とても難しい競走馬だったという話は、
特に聞いたことはないのですが・・・。
(次回は3月10日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉