「欧州の至宝」と呼ばれ、
史上最多となる14度の英愛リーディングサイアーを獲得している
現代のスーパー種牡馬サドラーズウェルズ(Sadler’s Wells)。
その馬名の由来となったのが、
ロンドンにある “サドラーズウェルズ劇場(Sadler’s Wells Theatre)” です。
おそらく、父ノーザンダンサー( “北の踊り子” )の馬名から、
バレエやオペラを上演する、
ロンドンの老舗劇場の名が連想されたのでしょう。
オペラハウス(ロンドンの高名な歌劇場、“ロイヤルオペラハウス” から)、
オールドヴィック(19世紀前半ロンドンに設立された名門劇場。シェイクスピア作品を上演)、
カーネギー(ニューヨークにある音楽の殿堂
“カーネギーホール” の設立者アンドリュー・カーネギーの名に由来)といった、
日本に種牡馬導入された、欧州の大レース勝ち馬たちも、
いずれも、劇場名を馬名の由来に持つ、
サドラーズウェルズ産駒ということになります。
2006~2009年にかけて、
4年連続で欧州最優秀ステイヤーに選出された
サドラーズウェルズ産駒イェーツ(Yeats)は、
劇場名ではありませんが、
イギリスの高名な劇作家を、その馬名のルーツとしています
劇作家の名は、ウィリアム・バトラー・イェーツ(William Butler Yeats)。
『アシーンの放浪』 、 『神秘の薔薇』 などの作品を著し、
1923年にはノーベル文学賞を受賞したイェーツは、
アイルランドのダブリンで生まれ、
母国アイルランドの古典文芸復興を目指していました。
また、作家イェーツは、日本の古典芸能である「能」に、
強い影響を受けていたことでも、よく知られています。
距離20F(4000m強)のマラソンレース、
G1アスコットゴールドCを4連覇した、
アイルランド生まれの競走馬イェーツは、
豊富なスタミナとタフネスを競い合う、
古き良き欧州競馬を体現している貴重な存在でもありました。
このイェーツの頑固なまでのステイヤーとしての在り方は、
鎌倉時代後期から現代まで、約700年に渡り、
日本文化のなかで連綿として存続している
お能の世界と共通しているのかもしれません。
(次回は3月3日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉