「ギムレットには早すぎるかな」
米の作家レイモンド・チャンドラーの傑作、
『長いお別れ -ロング・グッドバイ- 』のなかで、
事件の鍵を握るテリー・レノックスが、
主人公である私立探偵フィリップ・マーロウに向かって言う、
名セリフです。
友情と信義、
そしてアメリカ文明や社会に対しての鋭い批判も書き込まれた、
このハードボイルド小説のなかで、
“ギムレット”という名のカクテルは、
極めて重要な小道具として、度々登場してくるのです。
2002年の日本ダービー馬タニノギムレットは、
このカクテルから、馬名が付けられました。
そして、タニノギムレットの娘で、
父娘二代の日本ダービー馬に輝いたウオッカも、
お酒に因んだ馬名の持ち主ということになります。
ところで、ギムレットというカクテルは、
ベースとなるジンに、ライムジュースを加えて作ります。
このレシピからすれば、
父タニノギムレットと娘ウオッカの関係は、
ちょっと微妙なものにも思えてしまいます。
あるいは、人間社会にも、しばしば見られる “父と娘の断絶” が、
ともにダービー馬に輝いた、このスーパー親仔にもあるなんて…と、
淋しい気持ちになってしまった、
お父さん競馬ファンもいるかもしれません。
ただし、ジンをウオッカに替えて、
ライムジュースを加えるカクテルもあります。
その名は、“ウオッカ・ギムレット”、または “スレッジハンマー”。
まさに、疎遠に思えた親仔関係を、
一気に親密なものにしてしまうカクテル名ですよね。
ちなみに、“スレッジハンマー” とは、
強力なパワーを持つ、大型ハンマーのこと。
G1を7勝した歴史的名牝ウオッカの走りを形容する言葉としても、
本当に相応しいカクテル名なのです。
(次回は1月20日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉