馬名ミュージアム カタカナで9文字以内アルファベットで18文字以内と定められている競走馬たちの名前。この短い言葉のなかにその馬に関わる人々の希望や祈り、そして、いにしえのホースマンが紡いできた物語を感じとることができるのです。

第13回 馬名がトラブルを予見した!? 世界最高のマイラー

1997年に中国へ返還された香港もそうでしたが、
イギリスは、世界各地に海外領土を持っています。
これは、「7つの海を制した」大英帝国が繰り広げてきた、
植民地政策の名残でもあるわけです。

いまだ、イギリスが海外領土として保有しているのが、
大西洋と地中海を繋ぐ、海の要衝であるジブラルタル。
位置的には、スペインに属することが自然と思えるジブラルタルですが、
スペイン継承戦争を終結させるために、
1713年に結ばれたユトレヒト条約によって、
戦勝国であるイギリスの領土となりました。

石灰石でできた岩山(THE ROCK)に覆われた、
この土地を馬名の由来としているのが、
2歳時の仏グランクリテウムから、
3歳時のムーランドロンシャン賞まで、
G1戦7連勝という世界記録を打ち立てた超一流マイラーで、
「ザ・ロック」の愛称で世界中の競馬ファンに親しまれている
ロックオブジブラルタル(ROCK OF GIBRALTAR)です。

現在は、自前の議会を持つ自治都市となっているジブラルタルですが、
隣接するスペインは、いまもなお、領有権を強く主張しています。
ロックオブジブラルタルも、その現役引退、種牡馬入りの際に、
共同馬主であった “クールモアスタッド” の総帥ジョン・マグナー氏と、
その友人で、英プレミアリーグの名門
マンチェスターユナイテッド監督である
アレックス・ファーガソン氏との間で、
所有権を巡る訴訟沙汰が起きています。
後に、両者の間で和解が成立しましたが、
マグナー氏とファーガソン氏の仲は、
以前のような親密さを取り戻せていないまま、と言われています。

ジブラルタルは、チャールズ皇太子とダイアナ妃が、
新婚旅行で訪れた場所でもありました。
このロイヤル夫妻が、その後に辿った運命も併せて考えてみると、
このジブラルタルという土地は、
「争い事」や「決別」という言葉との縁が深いのかもしれません。

(次回は2月17日の水曜日にお届けします)  構成・文/関口隆哉