馬名ミュージアム カタカナで9文字以内アルファベットで18文字以内と定められている競走馬たちの名前。この短い言葉のなかにその馬に関わる人々の希望や祈り、そして、いにしえのホースマンが紡いできた物語を感じとることができるのです。

第17回 現代競馬を代表する名馬は、正真正銘の「世界遺産」!?

北アイルランド島北部、アントリム州に属する海岸線には、
火山活動により自然に出来上がった、
およそ4万個もの巨大石柱群が連なっています。
海岸線に沿って走る路面電車の名前は、
「ジャイアンツコーズウェイ鉄道(Giant’s Causeway Tramway)」。
そう、3歳6月から9月にかけての、わずか2カ月半の間に、
セントジェームスパレスS、エクリプスS、サセックスS、
英インターナショナルS、愛チャンピオンSとG1レース5連勝を飾り、
「鉄の馬(Iron Horse)」 と称された、
2000年欧州年度代表馬ジャイアンツコーズウェイの馬名は、
1986年に世界遺産として登録された、
この巨大石柱群に由来しているのです。

ジャイアンツコーズウェイ(Giant’s Causeway)を日本語に訳すと、
「巨人が造った石の道」。
巨人とは、いにしえのアイルランドに存在していたとされる、
フィン・マックールのことを指しています。
彼は、スコットランドの巨人ベナンドナーとの闘いに赴くため、
海岸線にコーズウェイを造り出しました。

フィン・マックールとベナンドナーの闘いに関しては、
こんな伝説が残されています。
ベナンドナーが想像以上に巨大だったため、
危機感を覚えたフィン・マックールは、妻に魔法をかけてもらい、
大きさはそのままで、赤ん坊の姿となります。
それを見たベナンドナーは、
その赤ちゃんをフィン・マックールの息子だと勘違いします。
「赤ん坊がこんなに大きいということは、親であるフィン・マックールは、
雲を突くような大巨人に違いない!」
そう考えたベナンドナーが、
フィン・マックールが造った石の道を蹴散らしながら逃走したため、
ジャイアンツコーズウェイは、現在のような、
奇観を呈することとなったわけです(注:異説も多々あります)

2001年から、アメリカで種牡馬となっているジャイアンツコーズウェイ。
米のG1ウイナーであるファーストサムライ、フロストジャイアント、
いずれも欧州のクラシック馬であるシャマダール、
フットステップスインザサンド、ガナーティー、
南半球でG1を制したアワージャイアント、ジャストアモーメント、
そして今春、日本のクラシックタイトルを狙うエイシンアポロンなど、
その産駒たちは、世界各国で素晴らしい活躍を示しています。
「競馬界の世界遺産」 へ。
ジャイアンツコーズウェイは、巨人の如き大股で、
ズンズンと、その歩みを進めているようです。

(次回は3月17日の水曜日にお届けします)  構成・文/関口隆哉