馬名ミュージアム カタカナで9文字以内アルファベットで18文字以内と定められている競走馬たちの名前。この短い言葉のなかにその馬に関わる人々の希望や祈り、そして、いにしえのホースマンが紡いできた物語を感じとることができるのです。

第20回 馬名のスケールも競走馬としても父を上回った "道営の星"

北海道営競馬に本拠地を置きながら、
中央、そして海外の大レースに挑戦し続け、
G1シンガポール国際航空C、G2セントライト記念、
G2弥生賞などを制した、コスモバルクが、
2010年3月に現役生活引退を表明しました。

この超個性派一流競走馬の父が、アイルランド生まれのサグレブ(Zagreb)。
G1愛ダービーを勝ち、引退後すぐに日本に導入された
ザグレブの種牡馬生活は、決して恵まれたものではありませんでしたが、
愛へ売却された後に、2歳G1馬コスモサンビーム、
そしてコスモバルクを輩出し、
日本競馬史に、その名を留めることとなったのです。

さて、ザグレブの馬名の由来は、クロアチア共和国最大の都市であり、
首都でもある “ザグレブ” に由来しています。
中世には、アジア系民族の侵攻に脅かされ、
第2次世界大戦前には、ナチスドイツによる傀儡国家の首都となった、
激動の歴史を持つザグレブ。
1995年には、クロアチアがユーゴスラビア連邦からの独立を目指す上で
勃発したクロアチア紛争で、空爆を受けるという悲劇も味わいました。

長年に渡り、政治や戦争に翻弄されてきたザグレブですが、
芸術面に関しては、東欧きっての文化都市として、
古くから隆盛を誇っていました。
「演劇的な」 という意味を持つ父シアトリカル(Theatrical)の馬名から、
クロアチア国立劇場、ザグレブオペラ劇場を筆頭とする、
数多くの劇場で、常時、歌劇や演劇が上演されている
クロアチア共和国の首都 “ザグレブ” の名を連想することは、
極めて自然な成り行きでもあるのでしょう。

ちなみに、コスモバルクは、
冠名の「コスモ(Cosmo)」に、
並外れて巨大な形状や数量を表わす、英語の名詞 「バルク(Bulk)」 が
付け足された馬名です。
冠名の “Cosmo” には 「宇宙の」 という意味がありますから、
訳せば、「果てなき大宇宙」 ということになるでしょうか。
地球のなかの一都市に過ぎない父の馬名と比較すると、
コスモバルクという名は、
物凄いスケールアップを果たしていることになります。
そして、競走馬としても、コスモバルクは父を越えたと
評価できると思います。
父サグレブ、息子コスモバルク共にG1勝ち鞍はひとつだけですが、
キャリア全4戦(2勝)で、3歳いっぱいで引退してしまった父と違い、
コスモバルクは2~8歳時にかけて48戦を走り抜き、
グレード重賞4勝を含む、計 「10」 の勝利を得たのですから。

今後は、北海道・新冠の明和牧場で功労馬として余生を送る
予定となっているコスモバルク。
同じく明和牧場にけい養され、
30歳まで元気で過ごしたハイセイコーの跡を継ぎ、
“バルク” な年齢まで、長生きすることを願っています。

(次回は4月7日の水曜日にお届けします)  構成・文/関口隆哉