馬名ミュージアム カタカナで9文字以内アルファベットで18文字以内と定められている競走馬たちの名前。この短い言葉のなかにその馬に関わる人々の希望や祈り、そして、いにしえのホースマンが紡いできた物語を感じとることができるのです。

第4回 日米オークス馬は "男装の麗人" だった!?

2005年に日本のオークス、
ハリウッド競馬場で行なわれたアメリカンオークスを連覇したシーザリオは、
近年の最強牝馬の一頭にも数えられる、飛び切りの名牝です。

シーザリオ(英語表記で “CESARIO” )という馬名は、
イギリスの天才劇作家ウィリアム・シェイクスピアの作品
『十二夜』の登場人物に由来しています。

『十二夜』はシェイクスピアが、脂の乗りきっていた時期の作品で、
簡単に言ってしまえば、
『男女7人冬物語』といったサブタイトルが付けられるようなラブコメディです。

シーザリオは、ヒロインのヴァイオラが男装しているときの名前。
彼女は、船で遭難し、行方知れずとなった双子の兄を想い浮かべながら男装するのですが、
その出来栄えは素晴らしく、
登場人物の誰もが、彼女を男だと信じ込んでいるのです。

ヴァイオラが男装したシーザリオに惚れてしまう伯爵の娘の登場、
行方不明になっていた双子の兄セバスチャンの帰還(当然、シーザリオとはウリ二つ)などで、
登場人物たちは大混乱。
積み重なった勘違いが、さらに笑いを呼ぶ展開となっていくのですが、
ラストはロマンチックなハッピーエンディングを迎えます。

1999年アカデミー賞作品賞に輝いた『恋に落ちたシェイクスピア』は、
スランプに悩むシェイクスピア本人が登場するコメディですが、
グウィネス・パルトロー演じるヒロインの名は『十二夜』と同じヴァイオラ。
シーザリオという名前ではありませんが、
彼女も男装してシェイクスピアの前に現われ、その心をかき乱していきます…。

話を競走馬であるシーザリオの方に戻しますが、
シーザリオのパワフルで爆発的な走りは、まさしく男勝りのものでもありました。
その馬名を男装の麗人のものとした、名付け親の先見の明に、
改めて敬意を表したいと思います。

(次回は12月16日の水曜日にお届けします)  構成・文/関口隆哉