1991年にフランスで生まれた、牝駒エリンバード “Erin Bird” は、
社台ファームの吉田照哉氏の所有馬として、欧州を主戦場に走り、
G2伊1000ギニーに優勝する活躍を示しました。
このエリンバードの“Erin”は、アイルランドを指す古い言葉。
つまりエリンバードという馬名は、
「アイルランドの鳥」 という意味になるわけです。
アイルランドは日本よりは北方に位置する国ですが、
同じ北半球の島国同士、
生息する鳥たちの種類は、かなり共通しているそうです。
そのアイルランドの国鳥となっているのがミヤコドリ。
紅くて長い嘴が特徴となっているミヤコドリは、
日本においても、主に冬場の海岸沿いで観察することが可能です。
さて、日本で繁殖牝馬となったエリンバードが、
父にデュランダルを得て2008年に出産したのが、
2011年のG1オークスを快勝した
エリンコート “Erin Court” ということになります。
“Court” は、裁判所を示す英単語として知られていますが、
「宮廷、宮中」 という意味も持っていて、
JRAが発表するエリンコートの馬名の由来でも、
「アイルランドの宮廷」 という訳語が当てられています。
現在のアイルランド共和国には、「王」 という存在がいないため、
当然、宮廷もありません。
しかし、1922年から1937年にかけて成立していた
アイルランド自由国は、英国国王を君主に戴く、同君連合国家。
「アイルランドの宮廷」 は、すなわちイギリス王室を指していました。
ちなみに、アイルランド自由国から
アイルランド共和国へ移行するときの英国王は、
2011年アカデミー賞作品賞に輝いた 『英国王のスピーチ』 の主役、
ジョージ6世 “George Ⅵ” ということになります。
エリンコートの祖母、エリンバードの母にあたるのが、
1982年に生まれたメイドオブエリン “Maid of Erin”。
“Maid” は、秋葉原界隈で幅を効かしている、
あの 「メイド」 を指す英単語ですが、
古い英語では、「少女」、「乙女」 といった意味で使われていました。
「アイルランドの乙女」 の3代目であるエリンコート。
母から受け継いだ血筋とともに、
タフで、パワフルで、息の長い末脚が使える、そのレーススタイルは、
ヨーロッパ競馬への高い適性を感じさせてくれます。
あるいは近い将来、馬名の由来となった欧州の島国の大レースで、
エリンコートが、素晴らしい成果をあげるかもしれません。
(次回は6月15日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉