古代ギリシャの数学者であり、物理学者でもある
アルキメデス “Archimedes” が発見した、
「アルキメデスの原理」 というものがあります。
これは、水のなかに物体を入れると、
その物体が押しのけた水の量と同じだけの浮力を受けることを
証明したものですが、
アルキメデスが、この原理を発見した経緯については、
なかなかに面白い伝説が残されています。
ある日、ギリシャ人の植民都市の王から、
アルキメデスに対し、こんな依頼がありました。
「自分の王冠を造らせた金細工師が、純金の一部を我が物とし、
混ぜ物をして王冠を造ったという噂があります。
高名なるアルキメデス先生、その金細工師が、本当に不正をしたかどうか、
ぜひ調査してください」
王の依頼を解決するために、悩みに悩んだアルキメデスですが、
風呂に入って水が溢れる様を見て、あることに気が付きます。
そしてアルキメデスが採用した調査方法は、
王が金細工師に渡したものと同量の純金と
出来上がった王冠を天秤にかけ、
その天秤を、水を張った容器に入れてみるというものでした。
密度の違いで純金と王冠の浮力に差が出たため、
アルキメデスは、金細工師が王冠に混ぜ物をしたことを見破ります。
科学の進歩の一助にはなったものの、
アルキメデスの原理の逸話に出てくる金細工師は、
不正を働いた罪人となってしまいました。
とはいえ、ヨーロッパの歴史に残る金細工師たちには、
ルネッサンスの時代に大活躍した、
ロレンツォ・ギベルティ “Lorenzo Ghiberti”、
アルブレヒト・デューラー “Albrecht Durer” といった、
素晴らしい芸術家と呼べる人たちも、多数存在しています。
2011年のG1皐月賞、G1ダービーを連覇した
オルフェーブル “Orfevre” は、フランス語で 「金細工師」 を指す言葉。
おそらく、父ステイゴールド “Stay Gold” の馬名からの連想でしょうが、
母であるオリエンタルアート “Oriental Art” も、
オルフェーブルというネーミングに、多少は関わっている気もします。
東洋に属する、日本を代表する金細工師といえば、
室町時代から江戸時代にかけて御用達の彫金を手掛けてきた
後藤四郎兵衛家の当主たちが有名です。
彼らは、前述のギベルティやデューラーにも負けない、
超一流の金細工師としての腕を持っていました。
特に、豊臣秀吉の依頼で、
4代目後藤四郎兵衛が造り上げた天正菱大判
(大阪にある造幣博物館などに実物が展示されています) は、
シンプルで美しく、なおかつ威風堂々とした印象を
見る人に与えてくれる大傑作となっています。
圧倒的な強さで3歳2冠を制した競走馬オルフェーブルの佇まいも、
静謐な凄みを感じさせる天正菱大判と非常に近いのではないでしょうか。
(次回は6月22日の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉