音楽の世界で、よく使われる言葉に、
「グルーヴ “Groove”」 というものがあります。
例えば、人気男性シンガーのスガシカオ氏は、あるインタビューで、
ライブ演奏をともに行うバックバンドのメンバーたちには、
何よりも 「グルーヴ感」 を求めると語っていましたし、
米音楽界の大物ソウルバンド、アース、ウインド&ファイアーには
『レッツグルーヴ “Let’s Groove”』 という大ヒット曲があります。
この音楽界で使われる “Groove” を日本語に訳すと、
「ノリノリ」 とか 「ワクワク」 という感じでしょうか。
つまり、スガシカオ氏がバンドのメンバーに要求するのは 「ノリの良さ」 で、
アース、ウインド&ファイアーは、
「さあ、今夜はみんなでワクワクしようぜ!」
とファンキーに歌っているわけです。
競馬の世界にも、とっても “Groove” な、歴史に残る名牝がいます。
競馬ファンなら、誰もがよく知っている、
その名もズバリ、エアグルーヴ “Air Groove”。
3歳時は熱発明けの厳しい状況のなかで、
母ダイナカールに続く、G1オークス母娘制覇を達成、
4歳時には、2000mに距離短縮後のG1天皇賞・秋を
牝馬として初めて制覇し、1997年年度代表馬に選ばれるなど、
エアグルーヴの競走馬生活は、競馬ファンの胸を、
最高潮に達するまで 「ワクワク」 させてくれたのでした。
繁殖牝馬となってからも、エアグルーヴの勢いは止まらず、
G1エリザベス女王杯を連覇したアドマイヤグルーヴ “Admire Groove”、
G2ステイヤーズSなど長距離重賞2勝のフォゲッタブル “Forgettable”、
G2金鯱賞など重賞を計3勝している現役のトップホース、
ルーラーシップ “Ruler Ship” といった重賞勝ち産駒を出しています。
前記の重賞馬3頭の馬名の意味は、
「冠名+母の名グルーヴ」、「忘れてもいいよ」、「支配者の権利」
となるのですが、なかでも気になるのが、フォゲッタブル。
ジャズのスタンダードナンバーに、
ナット・キング・コールの名演で知られる
「アンフォゲッタブル “Unforgettable” = 忘れることなどできないの」
という曲があるのですが、
競走馬フォゲッタブルは、それとは逆の意味。
これは、フォゲッタブルの馬主さん、調教師さん、厩務員さんが、
3冠馬ディープインパクトと同じチームで、
「ディープインパクトのことを忘れられるくらいの活躍を」 という
願いをフォゲッタブルにかけたネーミングだそうです。
このフォゲッタブルも、とても洒落た馬名ですが、
個人的に大好きなエアグルーヴ産駒の馬名が、
第2仔にあたる牝駒イントゥザグルーヴ “Into the Groove”。
「グルーヴの渦中へ」 という意味を持つ、この馬名は、
まさに音楽が持つ上質の陶酔感を、端的に表現したものだと思うのです。
まあ、「別に競馬とは、関係がないじゃん!」 と言われれば、
その通りではあるのですが…。
(次回は8月24の水曜日にお届けします) 構成・文/関口隆哉