2009年11月11日
こんにちは。
今週はエリザベス女王杯にシャラナヤを送り込んだ
アガ・カーン殿下の話題をお届けしています。
殿下が生産し馬主として走らせたスーパー牝馬の最高傑作は、
昨年7戦7勝で凱旋門賞を制したザルカヴァでしょう。
では、ザルカヴァはどこから来たのか?
時代は殿下の祖父アガ・カーン3世にさかのぼります。
1921年、3世殿下は1歳セリで芦毛の牝馬を購入します。
父が7戦7勝の快速馬ザテトラーク、母は名牝レディジョセフィン
彼女はムムタズマハルと命名されました。
アガ・カーン家の祖先であるムガール帝国の5世皇帝の妻、
ムムタズ・マハル皇后が馬名の由来だそうです。
皇后を深く愛した皇帝は皇后の死後、彼女の霊廟として、
イスラム建築の最高峰タージ・マハルを建設します。
世界文化遺産に指定されている名建築中の名建築ですね。
さて、ムムタズマハルは1000メートル走って100メートルの差をつけた、
と伝説が残っているほどの爆発的なスピード馬でしたが、
繁殖牝馬としては、さらに優秀で近代競馬の礎を築きます。
娘のムムタズベガムはネアルコとの間にナスルーラを産みます。
世界の競馬に大きな影響を与えたスピード血脈です。
また長女のサンプリンセスはロイヤルチャージャーの母となり、
その父系からサンデーサイレンスが誕生しています。
ムムタズベガムの11歳上の姉にマーマハルがいます。
彼女はダービー馬マームードの母となりますが、
その牝系から4代目にプティットエトワールが誕生します。
彼女は1000ギニーを制し、迎えたオークスでは
翌日のダービーに勝ったパーシアより速いタイムで快勝します。
繁殖に上がった彼女はたった1頭だけ牝馬を残します。
馬名ザーラ、アガ・カーン殿下のお嬢さんの名前が冠されます。
そしてザーラからザルナ、ザルカナ、ザルカシャと韻を踏み
ついに誕生したのがザルカヴァなのです。
基礎牝馬ムムタズマハルから数えて10代目、
アガ・カーン家の芸術のような馬産の象徴だと思います。
“素質の高い牝馬”を世に送り出して、
それが礎となってこそまた生産が成り立つのです。
08年のザルカヴァも09年のシャラヤナも、
血統をさかのぼれば私どもアガ・カーンの基礎牝馬である
ムムタズマハルにたどり着く伝統的な血脈の牝馬です。
娘(ザーラ)に素晴らしい次世代を残してやれたことはうれしい。
娘の名を与えた牝馬から期待の名牝を生み出すことに成功した
殿下の喜びがしみじみと伝わってくる言葉ですね。
あしたはアガ・カーン殿下のもう一頭の牝馬、
エリザベス女王杯に出走するシャラナヤの物語です。
きょうも来てくださってありがとうございます。
合田直弘さんの『海の向こうの競馬、そしてホースマン4』は
本日からブリーダーズC総評の連載がスタートします。
どうぞよろしくお願いします。