| 『伯楽の一顧を得る』 名伯楽が一度見て、もう一度振り返るだけで 馬の値段が跳ね上がるという中国の故事ですね。 さて、藤澤伯楽の伝説とは…? |
駿 | それはどんな伝説なんですか? |
俊 | たとえば日高には、 藤澤幽霊伝説みたいなものがあるらしい。 それほど姿を見ることがない(笑)。 |
駿 | 藤澤さんは牧場を見に行かないですか? |
俊 | 藤澤先生は私がお会いした当時、 10年連続でリーディングトレーナー(最高勝数)の 座をひとり占めにしていたわけです。 そのほかにも勝率、賞金獲得額、調教技術の各部門が JRAの調教師表彰に定められています。 大相撲にたとえると、リーディングトレーナーが優勝で、 あとは殊勲賞、敢闘賞、技能賞みたいなことでしょうか。 先生はそのほとんどに例年ように名を連ねていました。 |
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駿 | そう、ぶっちりぎでしたからね。 藤澤の馬には勝てないと、 みんな心の中で思っていました。 |
俊 | そういう実績があるから、 馬主さんのほうから良血は当たり前で、 その上に惚れ惚れするような姿かたちを持った馬を 預託してくるわけです。だからといって、 そうした馬がみんな走るかといったら、 それはそれで難しい問題なんですが…。 |
駿 | とりあえず、わざわざ自分で 日高まで出かける必要がなかった(笑)。 |
俊 | 5年に1度、姿を現すくらいだって(笑)、 だから藤澤を日高で見かけたら凄いことだって 伝説なんだそうです。 |
駿 | まさに幽霊並みですね(笑)。 |
俊 | まあ、本当はそんなことはないと思うんですよ。 これでいいとゴールをつくらない人ですから、 実際には足を運んでいたはずです。 “門前市を成す”という感じで藤澤先生に預けたいと 思っていらっしゃる馬主さんが それくらい多かったという事実が、 そういう形で伝説化されたんだと思いますね。 |
駿 | 中国に『伯楽の一顧を得る』という故事があります。 馬がいっこうに売れないので困った男が、 名人と評判の高い伯楽に頼んで、 その馬をじっと見てもらい立ち去り際に 一度振り返ってもらったところ、 それだけでその馬の値が10倍になったという話です。 現代風にいえばプロモーションの勝利、 ブランドづくりの奥義ですよ。 藤澤調教師ほどの人だと こうした宣伝に利用されかねない。 それでわざと足を遠のけていた、 行っても目立たないようにしていた、 ということなんでしょうね。 |
俊 | そうですね。そうした見識というか、 目配りにもすぐれた感性をお持ちですからね。 |
| (あしたにつづく) |