| ライバル・ビッグブラウンの悲劇に 「ケント! とめろ! おりろ!」 と血涙の叫びをしぼり出した藤澤師。 そして、その夜ひらかれた慰労会で…。 |
駿 | ベルモントSは残念な結果に終わってしまった。 |
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俊 | ええ。それでその夜、残念会と 帯同スタッフの慰労会をかねて食事をしたんです。 その席でジョーク好きな藤澤先生らしく 『あーぁ、だから海外遠征なんかやってられないんだ。 費用はかかる、賞金は安い、それに相手はバカ強い。 海外遠征なんてやるもんじゃないよ』と…。 |
駿 | 半分は本音かもしれないけれど、 その真意はスタッフへの気配りでしょう。 重く沈みがちな空気を和らげようと、 冗談にまぎらわせてスタッフを なごませようとしたんですね。 |
俊 | そうだと思います。そういう周りへの気遣いが できる藤澤先生が私は大好きですし、 尊敬しています。でも、これは 言っておかなければならないと…。 |
駿 | でも山本オーナーとしては藤澤調教師に対して 物申さねばならないと…? |
俊 | はい。先生のおっしゃることは2つまでは 本当です。たしかに輸送費、レースの登録料、 スタッフの移動費や滞在費、 ハンパじゃないお金がかかります。 向こうのレース賞金が安いというのも事実です。 カジノはG2ピーターパンSを勝ちましたが、 日本でいえば500万条件の平場戦と 変わらない賞金ですよ。賞金だけ考えるなら、 先生のおっしゃるように海外遠征なんて やるべきじゃない。それは間違っていません。 |
駿 | でも、藤澤和雄も間違っていることがある…? と。 |
俊 | はい、ひとつだけ間違っていることが あると思いました。せっかくの慰労会の席で ちょっと大人気ないかなと、若干後ろめたい気持ちは ありましたが、これだけは言っておかなければと 考えました。私たちはこの後も海外挑戦を やめるつもりはないのですからね。 |
駿 | 相手がバカ強いということですね。 |
俊 | そうです。たしかに向こうの馬は強い。 相当に強い。でも私たちはそれに勝てる、勝つんだ、 そういう気持ちで馬を連れて行くわけです。 そうでなければ、向こうのホースマンやレース自体に 失礼ですからね。カジノドライヴも、だから 連れて行った。藤澤先生の大人の配慮から見たら、 ガキがダダをこねるようなんですが、 そこはハッキリさせておきたかったんです。 |
駿 | なるほどね。で、先生はなんと…? |
俊 | もちろん理解していただきました。 そんなこと、私なんかより先生が百倍も そう考えているのに決まっていますからね。 |
| (あしたにつづく) |