酔いどれ対談
第29回
ホースマン藤澤和雄師を語る(7)
 

 

ライバル・ビッグブラウンの悲劇に
「ケント! とめろ! おりろ!」
と血涙の叫びをしぼり出した藤澤師。
そして、その夜ひらかれた慰労会で…。

駿

ベルモントSは残念な結果に終わってしまった。


 

ええ。それでその夜、残念会と
帯同スタッフの慰労会をかねて食事をしたんです。
その席でジョーク好きな藤澤先生らしく
『あーぁ、だから海外遠征なんかやってられないんだ。
費用はかかる、賞金は安い、それに相手はバカ強い。
海外遠征なんてやるもんじゃないよ』と…。

駿

半分は本音かもしれないけれど、
その真意はスタッフへの気配りでしょう。
重く沈みがちな空気を和らげようと、
冗談にまぎらわせてスタッフを
なごませようとしたんですね。

そうだと思います。そういう周りへの気遣いが
できる藤澤先生が私は大好きですし、
尊敬しています。でも、これは
言っておかなければならないと…。

駿

でも山本オーナーとしては藤澤調教師に対して
物申さねばならないと…?

はい。先生のおっしゃることは2つまでは
本当です。たしかに輸送費、レースの登録料、
スタッフの移動費や滞在費、
ハンパじゃないお金がかかります。
向こうのレース賞金が安いというのも事実です。
カジノはG2ピーターパンSを勝ちましたが、
日本でいえば500万条件の平場戦と
変わらない賞金ですよ。賞金だけ考えるなら、
先生のおっしゃるように海外遠征なんて
やるべきじゃない。それは間違っていません。

駿

でも、藤澤和雄も間違っていることがある…? と。

はい、ひとつだけ間違っていることが
あると思いました。せっかくの慰労会の席で
ちょっと大人気ないかなと、若干後ろめたい気持ちは
ありましたが、これだけは言っておかなければと
考えました。私たちはこの後も海外挑戦を
やめるつもりはないのですからね。

駿

相手がバカ強いということですね。

そうです。たしかに向こうの馬は強い。
相当に強い。でも私たちはそれに勝てる、勝つんだ、
そういう気持ちで馬を連れて行くわけです。
そうでなければ、向こうのホースマンやレース自体に
失礼ですからね。カジノドライヴも、だから
連れて行った。藤澤先生の大人の配慮から見たら、
ガキがダダをこねるようなんですが、
そこはハッキリさせておきたかったんです。

駿

なるほどね。で、先生はなんと…?

もちろん理解していただきました。
そんなこと、私なんかより先生が百倍も
そう考えているのに決まっていますからね。

 

(あしたにつづく)

酔いどれ対談バックナンバー
最終回
余暇の時代、そして競馬(8)
第39回
余暇の時代、そして競馬(7)
第38回
余暇の時代、そして競馬(6)
第37回
余暇の時代、そして競馬(5)
第36回
余暇の時代、そして競馬(4)
第35回
余暇の時代、そして競馬(3)
第34回
余暇の時代、そして競馬(2)
第33回
余暇の時代、そして競馬(1)
第32回
ホースマン藤澤和雄師を語る(10)
第31回
ホースマン藤澤和雄師を語る(9)
第30回
ホースマン藤澤和雄師を語る(8)
第29回
ホースマン藤澤和雄師を語る(7)
第28回
ホースマン藤澤和雄師を語る(6)
第27回
ホースマン藤澤和雄師を語る(5)
第26回
ホースマン藤澤和雄師を語る(4)
第25回
ホースマン藤澤和雄師を語る(3)
第24回
ホースマン藤澤和雄師を語る(2)
第23回
ホースマン藤澤和雄師を語る(1)
第22回
ロンシャンに架ける夢(番外編)
第21回
ロンシャンに架ける夢(後編)
第20回
ロンシャンに架ける夢(中編)
第19回
ロンシャンに架ける夢(前編)
第18回
世界は見えてきたか(番外編/下)
第17回
世界は見えてきたか(番外編/中)
第16回
世界は見えてきたか(番外編/上)
第15回
世界は見えてきたか(後編)
第14回
世界は見えてきたか(中編)
第13回
世界は見えてきたか(前編)
第12回
世界にまなび世界をめざす(後編)
第11回
世界にまなび世界をめざす(中編)
第10回
世界にまなび世界をめざす(前編)
第9回
"予想の真髄"を語る(後編)
第8回
"予想の真髄"を語る(中編)
第7回
"予想の真髄"を語る(前編)
第6回
日本で走らせる理由
第5回
サドラーズウェルズにこだわった理由
第4回
ミスターケビンに教えられたこと
第3回
砂漠に落としたイヤリングをさがす
第2回
海外挑戦には"世界仕様"の馬が先決
第1回
藤澤"諸葛孔明"に"三顧の礼"のお願い
序章
カジノドライヴ特別編