| エプソムダービー観戦に出かけた山本さん、 そこで驚くべき事実に遭遇する。 さて、山本さんをビックリさせた出来事とは…? |
駿 | エプソムダービーで、 普段はものに動じない山本さんを 驚かせた光景とはなんだったんですか? |
俊 | 競馬場に着いて、 レーシングフォーム(出馬表)を見ると ダービーの出走馬がたった14頭なんですね。 |
駿 | 日本ならフルゲートが当たり前になっている(笑)。 |
俊 | そうなんです。 不思議に思ってたずねてみると、 なんでミスター・ヤマモトは そんなことを聞くんだと 怪訝(けげん)な顔をされちゃいました(笑)。 |
駿 | 怪訝な顔ですか? |
俊 | はい、前日に行われたオークスは 7頭だというんです。 それが向こうの人の感覚では 当たり前になっている。 そんなことを不思議がるお前のほうが おかしいという論理です。 |
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駿 | 日本流にいえば、 もう1頭出ても全馬が賞金圏内だ(笑)。 |
俊 | そうなんです。 馬主になった以上、クラシックレースに 自分の馬を出走させるのは夢ですよね。 それは日本だろうと、どこだろうと 変わらないと思うんです。 ところがあちらはそうじゃない。 出られるのに出さない。 |
駿 | ラムタラのようにキャリア1戦で ダービーに出てくる馬もいる。 逆に日本風にいえば賞金額が足りていて 出走資格があるのに自重する馬主もたくさんいる。 日本人の感覚ではちょっと理解しにくいんですが、 それはたぶん、 伝統あるレースに対するリスペクト、 尊敬の念からくるんでしょうね。 |
俊 | そうなんです。 さすが清水さん、 非常に造詣が深くていらっしゃる。 |
駿 | 私はヨーロッパには さほど詳しくないんだが、 先ほどちょっとお話した ケンタッキーダービーなんかでも レースに対する尊敬はものすごいものがあります。 |
俊 | “ダービー馬かくあるべし” みたいな基準というか、基本理念というか、 哲学が向こうのホースマンには 浸透しているんですね。 血統はこう、馬体はこう、配合はこう、 という理想に近づいたサラブレッドだけに 資格があると思われています。 |
駿 | まぁ昔から “ダービー馬はダービー馬から” といわれていますが、 これは単なる血統論じゃない。 山本さんがおっしゃるような 理想のサラブレッドを 追い求めていくとそういうことになるんだよ、 というジェントルマンたちの常識なわけですよ。 |
俊 | まったく同感です。 |
駿 | そういう中で勝つから価値がある。 “一国の宰相になるより、 ダービーオーナーになりたい” というチャーチル元首相の名言も そういう背景があってこその本音も本音、 思わず溜め息が出るような 実感なんでしょうね(笑)。 |
俊 | 日本ダービーとはだいぶ違います。 |
駿 | クラシックレースの本来の意義は、 後世に名血を伝えることにあります。 そのための資格を競うレースなんですね。 ですから、 いくら一世一代の晴れ舞台だからといって、 誰の目にも明らかなスプリンターが出てきたり、 馬格の変な馬が出てきたり、 これは向こうではありえないことです。 |
俊 | 判官びいきといいますか、 われわれ日本人はそうした弱点をもったものに 妙に肩入れしてしまうところがある(笑)。 |
駿 | そこをグッとこらえるのが(笑)、 馬主や調教師の見識であり、 美学だと思いますよ。 いくら晴れ舞台だから、 長年の憧れだからといっても、 理屈のとおらないことはやっちゃいけない、 これは欧米人の普通の感覚ですよね。 |
俊 | はい、間違いなくそうだと思います。 |
駿 | そのあたりをしっかり理解していないと 相手にされないぞ、 日本でG1をいくつ勝ったから ヨーロッパやアメリカに行こう という話じゃないだろう、 基本中の基本であるホースマン精神を 身につけないと馬が走る走らない以前に 問題にされないぞ、と山本オーナーは 本場のダービーのパドックで考えたんだ。 |
俊 | まったくそのとおりです。 |
| (あしたにつづく) |