| 競馬とはなにか? エプソムダービーのパドックで そのことばかりを考えていたという山本さん、 成駿さんが、その思いに肉薄します。 |
駿 | そろそろ馬主になろうかと 考えはじめていた山本さんが、 たまたま観戦したエプソムダービーが14頭立て、 前日のオークスに至っては7頭立て という光景を目の当たりにして、 日本とはまったく違う ホースマン精神のあり方に驚いた、 このあたりをもう少し詳しく聞きたいんですが…。 |
俊 | ダービー創設以来でも200年以上、 向こうの人たちはホースマンシップを 自分の原点において、 それをなんの揺るぎもなく受け継いできました。 それが何かといえば、“誇り”だと思うんですね。 人間としての“誇り”なんですね。 競馬というものを甘く考えていた自分が 恥ずかしくなりました。 |
駿 | 日本では競馬を 経済と考える馬主がいっぱいいる。 馬主がそうだから、生産者や調教師も そうした側面を無視できないわけです。 ところが、あちらでは文化なんだ。 銭金の問題じゃない。 損得勘定なんかはとんでもない、 そう考えているホースマンが200年、 300年と伝統を頑固に曲げようとしない。 もうこれは、良い悪いの問題じゃなくて、 もともと競馬はそういうものだと 思うしかないですね(笑)。 |
俊 | まったく同感です。 |
駿 | 同じサラブレッドが走っているんだが、 日本で行われているものを競馬とすれば、 あちらは競馬じゃない。 あちらが競馬だとすると日本のはそうじゃない。 それくらいの違いがある(笑)。 |
俊 | 本当にそうですね。 サラブレッドに携わる人々の意識というか、 精神構造にはそれくらいの 開きがあると思いますね。 |
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駿 | それで山本さんは、あちらを選んだ! 相当な覚悟をもってね。 それは銭金や損得勘定でするんじゃなくて、 自分の“誇り”にかけて馬を選び、 鍛え、レースに出走させる、 そういう競馬をめざしたわけですね。 |
俊 | そうありたいと願っています。 私はビジネスマンとして、 世界中の人々と パートーナーシップでつながっていて、 世の中の人々がみんな 幸せになれるような事業を 拡げていきたいと考えてきました。 で、ヨーロッパのいろいろな皆さんと いろいろお話しするうちに、 この誇り高い人たちと 対等におつきあいしていくのは大変なことだぞ、 と身が引き締まるような思いをさせられました。 |
駿 | 山本さんは冗談ばっかりで、 人を笑わせてばっかりなんだけど(笑)、 根は真面目も真面目、大真面目なんだ。 ヘェー、エプソムのパドックで そんなことを考えていたんだ。 |
俊 | はい。もうこうなると、 競馬をやることは私にとって道場というか、 “虎の穴”のように思えてきました。 世界をめざすためには、 世界に学ばなくてはいかんぞ、 と思いましたね。 |
駿 | ヘェー、“虎の穴”ですか(笑)。 それで世界に学び、世界をめざすために、 さっきのお話(第5回)にあった サドラーズウェルズを買ったんですね。 |
俊 | はい。当時のヨーロッパのG1レースを 勝ちまくっていましたからね。 向こうのホースマンに失礼にならないような 血統、馬格、配合を考えていくと、 やはりサドラーなのかと。 まぁ、入門編みたいなものでしょうか(笑)。 |
駿 | ところが入門編は、 どうやら完敗に終わってしまった? |
俊 | はい、先ほどもいったように 散々な目にあいました。 |
駿 | 山本さんは日本の馬主だから、 向こうで買った馬でも 日本でおろさなければならない。 そうしないと向こうの馬 ということになってしまって、 ジャパンCなどの招待レースでもないかぎり、 日本で走らせることができなくなる。 そうでしたね? |
俊 | はい、JRAのルールでは そういうことになっています。 |
駿 | 日本でデビューさせて向こうに連れて行く、 言葉にすれば、たったの1行、 でも生易しいことじゃないですね。 |
俊 | 大変ですね。 向こうの方々に失礼にならない馬を 連れて行かねばなりません。 それは単に実績ということではないんですが、 カジノドライヴのように 新馬戦だけで確信をもてた馬もいるんですが、 普通にはある程度は目に見える形で、 この馬はそちらのレースに出す資格を 備えていますよ、と証明しなければなりません。 |
駿 | ところが、サドラーをはじめ生粋の ヨーロッパ血統は日本の固い馬場になじまない。 日本では走らない。ヨーロッパが いっぺんに遠ざかってしまった(笑) |
俊 | いえいえ(笑)、 入門編をしくじったからといって 簡単にあきらめるくらいなら、 最初から競馬はやっていませんよ(笑)。 |
駿 | ホォー、そいつは頼もしいですね。 |
| (あしたにつづく) |