酔いどれ対談
第12回
世界にまなび世界をめざす(後編)
 

 

競馬とはなにか?
エプソムダービーのパドックで
そのことばかりを考えていたという山本さん、
成駿さんが、その思いに肉薄します。

駿

そろそろ馬主になろうかと
考えはじめていた山本さんが、
たまたま観戦したエプソムダービーが14頭立て、
前日のオークスに至っては7頭立て
という光景を目の当たりにして、
日本とはまったく違う
ホースマン精神のあり方に驚いた、
このあたりをもう少し詳しく聞きたいんですが…。

ダービー創設以来でも200年以上、
向こうの人たちはホースマンシップを
自分の原点において、
それをなんの揺るぎもなく受け継いできました。
それが何かといえば、“誇り”だと思うんですね。
人間としての“誇り”なんですね。
競馬というものを甘く考えていた自分が
恥ずかしくなりました。

駿

日本では競馬を
経済と考える馬主がいっぱいいる。
馬主がそうだから、生産者や調教師も
そうした側面を無視できないわけです。
ところが、あちらでは文化なんだ。
銭金の問題じゃない。
損得勘定なんかはとんでもない、
そう考えているホースマンが200年、
300年と伝統を頑固に曲げようとしない。
もうこれは、良い悪いの問題じゃなくて、
もともと競馬はそういうものだと
思うしかないですね(笑)。

まったく同感です。

駿

同じサラブレッドが走っているんだが、
日本で行われているものを競馬とすれば、
あちらは競馬じゃない。
あちらが競馬だとすると日本のはそうじゃない。
それくらいの違いがある(笑)。

本当にそうですね。
サラブレッドに携わる人々の意識というか、
精神構造にはそれくらいの
開きがあると思いますね。


 

駿

それで山本さんは、あちらを選んだ!
相当な覚悟をもってね。
それは銭金や損得勘定でするんじゃなくて、
自分の“誇り”にかけて馬を選び、
鍛え、レースに出走させる、
そういう競馬をめざしたわけですね。

そうありたいと願っています。
私はビジネスマンとして、
世界中の人々と
パートーナーシップでつながっていて、
世の中の人々がみんな
幸せになれるような事業を
拡げていきたいと考えてきました。
で、ヨーロッパのいろいろな皆さんと
いろいろお話しするうちに、
この誇り高い人たちと
対等におつきあいしていくのは大変なことだぞ、
と身が引き締まるような思いをさせられました。

駿

山本さんは冗談ばっかりで、
人を笑わせてばっかりなんだけど(笑)、
根は真面目も真面目、大真面目なんだ。
ヘェー、エプソムのパドックで
そんなことを考えていたんだ。

はい。もうこうなると、
競馬をやることは私にとって道場というか、
“虎の穴”のように思えてきました。
世界をめざすためには、
世界に学ばなくてはいかんぞ、
と思いましたね。

駿

ヘェー、“虎の穴”ですか(笑)。
それで世界に学び、世界をめざすために、
さっきのお話(第5回)にあった
サドラーズウェルズを買ったんですね。

はい。当時のヨーロッパのG1レースを
勝ちまくっていましたからね。
向こうのホースマンに失礼にならないような
血統、馬格、配合を考えていくと、
やはりサドラーなのかと。
まぁ、入門編みたいなものでしょうか(笑)。

駿

ところが入門編は、
どうやら完敗に終わってしまった?

はい、先ほどもいったように
散々な目にあいました。

駿

山本さんは日本の馬主だから、
向こうで買った馬でも
日本でおろさなければならない。
そうしないと向こうの馬
ということになってしまって、
ジャパンCなどの招待レースでもないかぎり、
日本で走らせることができなくなる。
そうでしたね?

はい、JRAのルールでは
そういうことになっています。

駿

日本でデビューさせて向こうに連れて行く、
言葉にすれば、たったの1行、
でも生易しいことじゃないですね。

大変ですね。
向こうの方々に失礼にならない馬を
連れて行かねばなりません。
それは単に実績ということではないんですが、
カジノドライヴのように
新馬戦だけで確信をもてた馬もいるんですが、
普通にはある程度は目に見える形で、
この馬はそちらのレースに出す資格を
備えていますよ、と証明しなければなりません。

駿

ところが、サドラーをはじめ生粋の
ヨーロッパ血統は日本の固い馬場になじまない。
日本では走らない。ヨーロッパが
いっぺんに遠ざかってしまった(笑)

いえいえ(笑)、
入門編をしくじったからといって
簡単にあきらめるくらいなら、
最初から競馬はやっていませんよ(笑)。

駿

ホォー、そいつは頼もしいですね。

 

(あしたにつづく)

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