酔いどれ対談
第3回
砂漠に落としたイヤリングをさがす
 

 

世界に通用するサラブレッドを求めて
山本オーナーと藤澤調教師の旅がはじまりました。
きょうは世界仕様の馬さがしのノウハウについて
成駿さんが鋭く突っ込みます。

駿

海外のビッグレースで勝ち負けできる
世界仕様の馬ということですが、
それは砂漠の中に落としたイヤリングを
見つけるより難しいことですね。

はい、まったくおっしゃるとおりでしたね(笑)。

駿

でしたね…? 過去形ですね。


 

いや過去もそうでしたし、現在も同じです。
ただその当時は私自身が競馬を甘く見ていた。
これと思う馬を買ってきて、
藤澤先生ほどの調教師に預ければ、
世界といえどもG1のひとつやふたつ勝てるだろう
なんて内心で思っていたのかもしれません。
とんでもない勘違いですね。

駿

ハッハッハッ、それはたしかに甘いね(笑)。

いま思うと全身から汗が噴き出す思いですよ。
失敗するのも当たり前だったと思います。

駿

しかし、山本オーナーは先ほどいったように
(第2回をご覧ください)、
成功は偶然でも手に入ることがあるが、
失敗はすべて必然の糸に導かれている、
だから反省して分析して、
その上に仮説を立てた…? そうですね。
その戦略というのは、どんなものだったんですか?

はい。私は馬が見れませんから、
藤澤先生にお願いして
ヨーロッパやアメリカなど主要なセリ市に
出かけてもらいました。
牧場もこまめに回っていただきました。

駿

といっても、
日本だけでも毎年8000頭あまりの仔馬が生まれる。
それが世界中となると、
主要なセリや牧場だけでも
何万頭という数になりますね。

ええ。ですから、チームを組んで、
私を中心にまず血統を研究して、
配合を分析して、
血統は世界共通でどこにいようと
研究や分析はできますからね、
それでこれぞという馬をピックアップしていきます。

駿

でも血統からだけでは
判断できないものもいっぱいあります。
良血馬が走るとはかぎらないし、
仮にそうだとしても、
どの良血馬が走るかなんてのは分からない(笑)。
血統にかぎらず競馬って、
おおむねは結果論に流れがちですよね(笑)。

はい、そのとおりです(笑)。
でも、そういってしまってはおしまいですから(笑)、
次の段階では、レーシングマネジャーの
多田(信尊)さんが世界中の情報を収集してくれて、
その上でたとえばアメリカですと
ジョン・マコーマックというエージェントが
馬体診断をやってくれています。
そうやってさらに絞り込むわけです。
ヨーロッパにもエージェントはおいています。
何段階もフルイにかけたのを、
最終的に藤澤先生に見てもらう。
まぁ、もうちょっといろいろあるんですが、
簡単にいえばそんな仕組みですね。

駿

ウーン、大変だねぇ。
すべての道は世界につうず、
しかしその道は遥か遠くかなたにありき、
ということですね。

世界も“遠きにありて思うもの”なんでしょうか。
清水さんとお話しているとそんな気がしてきた…。

駿

『故郷は遠きにありて思ふもの
 そして悲しくうたふもの』
室生犀星ですね。
山本さんは詩の心得もあるんだ。

いえいえ、私は根っからのビジネスマンだから、
詩人のように達観したりできない。
あきらめが悪いんですよ(笑)。
だから失敗しても失敗しても、
自分でも馬鹿じゃないかと思うほど
あきらめ悪くやりつづけたりする(笑)。

駿

その姿勢が大事なんだ。
そうでなくてはビジネスで成功したり、
日本の競馬を変えたりできないですよ。
まぁ、おおかたの歴史はあなたのように
あきらめの悪い人が変えることになっている(笑)。
『史記』に“韓信のまたくぐり”
なんて話が出てきますが、
大きな志の前にはどんな理不尽にも耐える、
恥も恐れない、そのことであきらめたりしない、
それで彼は遂に劉邦とともに天下を取るわけです。
山本さんと韓信の話はちょっと違うんだが、
その心根のあり方は
共通するものがあるように思いますね。

 

あきらめの悪さこそが武器、
そんなふうにも聞こえる山本オーナーの世界への志。
しかし、その道は失敗に次ぐ失敗だったとも…。
次回は苦闘の馬探しのお話です。

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