| 世界に通用するサラブレッドを求めて 山本オーナーと藤澤調教師の旅がはじまりました。 きょうは世界仕様の馬さがしのノウハウについて 成駿さんが鋭く突っ込みます。 |
駿 | 海外のビッグレースで勝ち負けできる 世界仕様の馬ということですが、 それは砂漠の中に落としたイヤリングを 見つけるより難しいことですね。 |
俊 | はい、まったくおっしゃるとおりでしたね(笑)。 |
駿 | でしたね…? 過去形ですね。 |
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俊 | いや過去もそうでしたし、現在も同じです。 ただその当時は私自身が競馬を甘く見ていた。 これと思う馬を買ってきて、 藤澤先生ほどの調教師に預ければ、 世界といえどもG1のひとつやふたつ勝てるだろう なんて内心で思っていたのかもしれません。 とんでもない勘違いですね。 |
駿 | ハッハッハッ、それはたしかに甘いね(笑)。 |
俊 | いま思うと全身から汗が噴き出す思いですよ。 失敗するのも当たり前だったと思います。 |
駿 | しかし、山本オーナーは先ほどいったように (第2回をご覧ください)、 成功は偶然でも手に入ることがあるが、 失敗はすべて必然の糸に導かれている、 だから反省して分析して、 その上に仮説を立てた…? そうですね。 その戦略というのは、どんなものだったんですか? |
俊 | はい。私は馬が見れませんから、 藤澤先生にお願いして ヨーロッパやアメリカなど主要なセリ市に 出かけてもらいました。 牧場もこまめに回っていただきました。 |
駿 | といっても、 日本だけでも毎年8000頭あまりの仔馬が生まれる。 それが世界中となると、 主要なセリや牧場だけでも 何万頭という数になりますね。 |
俊 | ええ。ですから、チームを組んで、 私を中心にまず血統を研究して、 配合を分析して、 血統は世界共通でどこにいようと 研究や分析はできますからね、 それでこれぞという馬をピックアップしていきます。 |
駿 | でも血統からだけでは 判断できないものもいっぱいあります。 良血馬が走るとはかぎらないし、 仮にそうだとしても、 どの良血馬が走るかなんてのは分からない(笑)。 血統にかぎらず競馬って、 おおむねは結果論に流れがちですよね(笑)。 |
俊 | はい、そのとおりです(笑)。 でも、そういってしまってはおしまいですから(笑)、 次の段階では、レーシングマネジャーの 多田(信尊)さんが世界中の情報を収集してくれて、 その上でたとえばアメリカですと ジョン・マコーマックというエージェントが 馬体診断をやってくれています。 そうやってさらに絞り込むわけです。 ヨーロッパにもエージェントはおいています。 何段階もフルイにかけたのを、 最終的に藤澤先生に見てもらう。 まぁ、もうちょっといろいろあるんですが、 簡単にいえばそんな仕組みですね。 |
駿 | ウーン、大変だねぇ。 すべての道は世界につうず、 しかしその道は遥か遠くかなたにありき、 ということですね。 |
俊 | 世界も“遠きにありて思うもの”なんでしょうか。 清水さんとお話しているとそんな気がしてきた…。 |
駿 | 『故郷は遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの』 室生犀星ですね。 山本さんは詩の心得もあるんだ。 |
俊 | いえいえ、私は根っからのビジネスマンだから、 詩人のように達観したりできない。 あきらめが悪いんですよ(笑)。 だから失敗しても失敗しても、 自分でも馬鹿じゃないかと思うほど あきらめ悪くやりつづけたりする(笑)。 |
駿 | その姿勢が大事なんだ。 そうでなくてはビジネスで成功したり、 日本の競馬を変えたりできないですよ。 まぁ、おおかたの歴史はあなたのように あきらめの悪い人が変えることになっている(笑)。 『史記』に“韓信のまたくぐり” なんて話が出てきますが、 大きな志の前にはどんな理不尽にも耐える、 恥も恐れない、そのことであきらめたりしない、 それで彼は遂に劉邦とともに天下を取るわけです。 山本さんと韓信の話はちょっと違うんだが、 その心根のあり方は 共通するものがあるように思いますね。 |
| あきらめの悪さこそが武器、 そんなふうにも聞こえる山本オーナーの世界への志。 しかし、その道は失敗に次ぐ失敗だったとも…。 次回は苦闘の馬探しのお話です。 |