知恵の言葉

厩舎社会はヤラズ上手(後編)

そして、こうしたクラスの馬を有効に使うには、
「生かさず殺さず」が基本パターンになる。
OH! これぞ資本主義のメカニズム。
身につまされますな、ご同輩。クッスン。
とはいえ、あの山口瞳センセーもいっています。
どんなブスな女性でも、
生涯に一度はあの春に咲くサクラのように
ハツラツと光りかがやく時期がある、と。
スポーツも同じ。
どんな選手でも、
スポーツ人生の中で必ずピークをむかえる時期があるのだ。
思えば、90年(平成2)のプロ野球。
ペナントレースは須藤大洋のガンバリ以外に見るべきものがなかったが、
選手個人はなんといっても近鉄の新人・野茂英雄がスゴかった。
ストレートとフォークボールでバッタバッタと三振をとり、
最多勝、勝率1位、防御率、奪三振の4冠王。
だが、これを10年前にやった投手がいた。
80年(昭和55)の日本ハムの木田だ。
その後の木田は、
2年目に10勝をあげたものの、なかずとばず。
日本ハムから大洋、中日に移り、
野茂が活躍した今年のシーズン終了後、自由契約、つまりクビになった。
太くて短く生きてしまったワケだ。
これが入団早々、大活躍もできずに二線級で終始していれば、
あるいはいまもって
貴重な中継ぎ投手として現役をつづけていたかもしれない。
ピーク時が早過ぎた不幸といえばいいのか。
競馬の場合も似たり寄ったりである。
やはりどんな馬でも、競走馬生涯の中でピークの状態をむかえる時期がある。
そして、このとき、まとめて勝ってしまうと、必然的にクラスが上がってしまう。
当然、以後は強敵を相手にしなければならない。
状態のよさだけで勝ち上がってきた馬は、
この昇級のカベが厚い
フツーの状態にもどってしまっては、入着すらむずかしい。勝てない…。
馬自身も、スランプに陥ってしまい、
軽いメンバーになっても走る気をなくしてしまう。
こんなワケで、厩舎がその馬の“素質”を
どの程度見極めているかがポイントになる。
一般的には、一度勝ったらしばらくは様子を見るのである。
いうところの “ヤラズ” である
考えてみれば、競馬というのは、1着、2着、3着、4着・・・がいて、
ブービーがいて、さらにドンジリがいてはじめて成り立つ。
そのムカシは、強すぎるゆえ単走駆けもあったらしいが、いまはない。
しかし、ファンは、出走するからには万全の状態で、
全馬が勝ちにくると思っている。
そして、それを前提に馬券を購入する。
こんな青くさい考えでは的中しない
出走手当て、入着賞金がめあてで出走してくる馬もいるのだから。
とくに900万下のクラスがクセモノだ。
500万下だと赤字だが、900万下の総賞金は、
馬代金や預託料を含めた経費を上まわり、黒字なのである。
だから、なまじ勝って1500万下に上がりたくない、と思うのは人情だ。
1500万下はレースが少なく、
コースや距離が限定されてしまうからである。
こんなワケで、900万下は、
馬主や厩舎にとって居心地のいいクラスなのだ。


・・・次回は火曜日の更新となります。お楽しみに!

東邦出版発行『知って得する競馬の金言』より
HPへはこちらからどうぞ!





バックナンバー